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2021年は年明けから気温が低く北日本では降雪量も多かったが、1月後半以降は一転して気温が上昇し3月には全国各地で平年よりもかなり高い気温を記録した。また8月中旬には関東以西で前線の停滞が影響し、雨の多い天候が続いた。春先の気温が高かったことから果樹の生育が進み、それにともない病気の早期の感染が懸念され、モモせん孔細菌病、リンゴ黒星病で注意報が出された。特にモモせん孔細菌病は地域によっては前年よりも春型枝病斑の数が多かったこと、4、5月の降水量が多かったこと(西日本では梅雨入りが5月中と記録的に早かった)が発生の拡大につながると懸念された。毎年、気象条件の振れ幅が大きく適期防除を難しくしているが、気象予報を参考に果樹の生育に合わせた薬剤の予防散布、加えて風雨対策の実施や圃場(ほじょう)衛生の維持に努め、園地の病原菌密度を抑えることが重要だ。
ブドウの重要病害には雨水で広がるものが多く、また日本はブドウの原産地である西アジアに比べて雨の量が多いため、病気が発生しやすい条件にある。近年の降雨量の増加に加えて、西日本では21年は梅雨入りが極端に早かったため病気の多発が懸念された。べと病については注意報が1県から出された。本病はブドウに大きな被害を与える病気の一つであるため、耕種的な対策と薬剤防除を組み合わせて対策に当たる。耕種的な対策としては、前年の発病葉や発病果が伝染源になるので園地からできる限り取り除く。降雨によって発病が助長されるので、可能な場合には雨よけ栽培を行う。
特に落花直後は重点防除時期となり、マンゼブ剤あるいは発生の多い場合にはべと病防除の専用剤を散布する。降雨が続くと一気に病気が広がるので雨の合間に散布を行い予防に努める。 晩腐病は収穫間近の果実を加害するので、経済的な被害が大きい。病原菌は幼果に感染してもすぐに発病せず、収穫が近づき果実の糖度が上昇すると急速に腐敗を引き起こす。
本病は20年に長梅雨の影響で多発し、病原菌密度が高まっていると考えられるため、今後も注意が必要である。伝染源は5月頃から収穫期まで飛散するため、生育期全般にわたった薬剤散布が重要だ。また薬剤散布だけで被害を抑えることは難しく、耕種的な対策との組み合わせが必要だ。
伝染源は雨水とともに広がるため雨よけは効果的な対策である。また、袋掛けの際には袋の口をしっかりと締めて雨水の侵入を防ぐことも有効だ。休眠期には前年の残存果房や棚線に残った巻きひげを取り除いて圃場衛生に努める。
炭そ病はカキ果実に黒色の斑点を生じさせ著しく商品価値を下げるため、経済的被害の大きい病気である。本病も雨水によって広がることから、21年は8月中旬以降に長雨の続いた地域で多発し、4県から注意報が出された。本病は越冬した伝染源が翌年の若い枝に最初に感染し、さらに若い枝から飛散した伝染源が果実に感染し被害を与える。このため若い枝が発生し始める時期から果実肥大期にかけて防除を行う。
防除にはチオファネートメチル剤、DMI剤、QoI剤、SDHI剤などが用いられる。散布の際には、かけむらが生じないよう丁寧に作業を行う。薬剤防除だけでは被害を減らすことは難しいので、圃場を見回り発病枝や発病果の除去に努める。
16年に黒星病が多発し問題になって以来、防除対策が進み発生は落ち着いてきている。しかし、21年2、3月の高温によってリンゴの生育が進んだことから、前年被害の多かった園地では早期の発生が懸念された。また最近では、開花開始よりも早く本病に感染しやすい気象条件になるため、防除適期を逃さないように注意が必要だ。
多発の一因として、これまで多用されてきたDMI剤に対する耐性を持った黒星病菌が出現したことが挙げられる。耐性菌が出現した地域では、DMI剤を他の薬剤に置き換えた防除体系に移行しつつある。
2021年は前年に続き1年を通じて気温が高く日照時間も多く推移したが、8月には西日本の日本海側と西日本の太平洋側で同月最大の月降水量を記録した。害虫による全国的な大きな被害は発生しなかった。ここでは、主要害虫のグループごとに21年の発生状況と防除のポイントについて概説する。
ハダニ類やカイガラムシ類のように果樹園内で越冬する害虫は、冬季にマシン油乳剤を散布し、越冬密度を減少させることが春以降の発生密度低減に重要だ。このとき、越冬場所を減らすことと薬剤がかかりやすくなることを考慮して、適切に剪定(せんてい)を実施するとともに誘引ひもなどの資材の除去や粗皮削りを行うとよい。
果実を加害するチャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ、クサギカメムシはまとめて果樹カメムシ類と称される。21年は前年秋からの越冬世代が全国的に少なかった。当年世代の発生も全国的には少なく推移した一方で、西日本を中心に6県で注意報が発表され一部の地域で散発的に被害が見られた。秋の発生量が多かった地域では、この冬の越冬密度が高くなることが予想される。来春以降の越冬成虫による梅やビワ、桃や梨の幼果、また、かんきつの花への飛来に対して警戒が必要だ。各地域の発生予察を参考にして適切に防除してほしい。果樹カメムシ類防除の基本は、早期発見と早期防除である。園内をこまめに見まわり、飛来初期から地域で一斉に防除すると効果が高い。発生量が多いときは、防除効果の長い合成ピレスロイド剤や吸汁阻害効果が持続するネオニコチノイド剤が有効だ。ただし、合成ピレスロイド剤などのハダニの天敵にも影響する殺虫剤の多用はハダニの多発を招くので注意してほしい。
モモシンクイガとナシヒメシンクイは幼虫がリンゴ、梨、桃などの果実内を食害する。モモシンクイガは5~9月くらいまで長期間にわたり羽化して果実に産卵する。ナシヒメシンクイは越冬世代成虫が3月下旬から4月にかけて羽化し、第1世代幼虫は桃などの新梢(しんしょう)を加害(芯折れ)する。5月以降の第2世代から桃や梨などの果実への加害が始まり、年4~6回発生する。近年は北東北のリンゴでも本種の被害が増加している。21年は目立った被害はなかったが、近年はスモモやリンゴでスモモヒメシンクイによる被害が増加している。シンクイムシ類は成虫が発生している期間は果実への産卵を防ぐため定期的な防除が必要だ。残効の長い合成ピレスロイド剤やネオニコチノイド剤、ジアミド剤、また、複合交信かく乱剤も利用できる。交信かく乱剤は広域で一斉に施用すると効果が高くなる。
果樹を加害する主なハダニ類として、ナミハダニ、ミカンハダニ、リンゴハダニ、カンザワハダニなどが挙げられる。21年はかんきつのミカンハダニが四国九州地方で発生が多かったが、他の樹種を含めて全国的にはハダニ類による大きな被害は見られなかった。
ハダニ類は冬季のマシン油乳剤散布が春の初期密度低減に有効だ。ハダニ類は世代時間が短く薬剤抵抗性を発達させやすいので、作用機作が同一の殺ダニ剤の連続使用を避け、抵抗性の発達を抑える必要がある。薬剤抵抗性発達の程度は地域ごとに異なり、その程度に応じた適切な薬剤を選択する必要がある。
抵抗性の発達したハダニに対しても有効な防除として、土着の天敵カブリダニとパック式のカブリダニ製剤を組み合わせて利用する「W天敵体系」の研究が進み、生産現場に導入が拡大している。
果樹では、ビワを加害するビワキジラミが21年に愛媛県と大阪府で新たに発生し、発生は7府県に拡大した。桃やスモモなどを加害するクビアカツヤカミキリは現在12都府県で発生している。また、梅や桃を加害するヨコバイ科の一種の被害が拡大しており、20年は7府県、21年は新たに7都県で発生が確認されている。
ビワキジラミとクビアカツヤカミキリでは使用できる殺虫剤の登録件数が年々増えており、効果的な防除体系の構築が可能になりつつある一方、ヨコバイ科の一種ではまだ登録薬剤がなく、寄生葉の除去・埋設で対処しているのが現状だ。新規での殺虫剤登録が待たれる。