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保存版 防除特集

企画・制作 日本農業新聞 広告部

保存版 防除特集2022 企画・制作=日本農業新聞・広告部

水稲の病害

極端な気象で突発的に発生 

農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域
病害虫防除支援技術グループ 主席研究員
芦澤武人

 水稲病害による被害は、近年の極端な気象によって突発的に発生して問題となっている。いもち病は結露時間が長い日が続くと広域にまん延するため、予防が重要だ。稲こうじ病は出穂前に降雨日が多いと多発生につながる。紋枯病は標高が高い地域でも発生が認められるようになり、もみ枯細菌病は関東以北でも発生が顕著になっている。また、ごま葉枯病は微量要素の不足や高温により発生が助長されている。ばか苗病は全国的に発生が多くなっている。

 2021年は梅雨明けが全国平均で3日程度早く、夏季は高温多照となったが、その後は低温や曇雨天となり、葉・穂いもちともに発生が多く、紋枯病の発生はやや抑制された。稲こうじ病は西日本を中心に多発生となった。縞葉枯病は平年並みで、ごま葉枯病は西日本で発生が多く、もみ枯細菌病はやや少なかった。ここでは、これらの水稲病害に対する防除対策について紹介したい。

いもち病

 圃場(ほじょう)抵抗性遺伝子はPi34、Pi35、Pi39、pi21などが知られており、これらを交配により品種へ導入する育種が進んでいる。また、穂いもちに対する抵抗性遺伝子Pb1や量的遺伝子座qpbm11は、被害に直結する穂の被害を防ぐことができるため有望だ。しかし、わが国のコシヒカリをはじめとする主要な食用米品種のほとんどは、いもち病に対する抵抗性が弱いため、薬剤防除による対策が必要となる。農業法人などの経営規模が大きい生産者では、経費や労力を削減するために育苗箱あたりのは種量を多くして枚数を減らすことができる高密度は種が普及している。しかし、圃場あたりの薬剤使用量が少なくなるので、薬剤の効果が十分にあるか注意する必要がある。このため、移植時に側条施用が可能な薬剤で代替することも検討する。

葉いもち病斑
葉いもち病斑
紋枯病
紋枯病

紋枯病

 土壌中の菌核や罹病(りびょう)残さが伝染源となる。夏季に育苗箱施用剤の効果が切れたころから急激に病勢が進展する。高温と多湿の両方の条件がそろうと多発生につながるので注意する。防除適期は、水面施用剤は出穂期10~30日前、茎葉散布剤では穂ばらみ期から出穂期である。畦畔(けいはん)際を見回って発病した株の割合が20%を超える場合は防除を検討する。

稲こうじ病
稲こうじ病
ごま葉枯病
ごま葉枯病

稲こうじ病

 出穂前1カ月間の降雨日が多くなると多発生につながる。病粒は収穫時に半数は砕けて、圃場に落下して翌年の伝染源になる。鉄鋼スラグや生石灰を代かき前までに土壌混和し、粒剤を出穂期14~21日前にたん水散布することで発生を抑制できる。水和剤を出穂期10~21日前に散布しても良いが、降雨があると効果が落ちるので注意する。散布適期は、圃場で平均的な生育をしている株の中で最も草丈の高い茎をむいて、幼穂が1~5センチに生育していることを確認できる時期である。

もみ枯細菌病
もみ枯細菌病

ごま葉枯病

 老朽化土壌、泥炭土壌、砂質土壌などの地力が弱い水田では鉄、マンガン、ケイ酸などの成分が少なく、稲体が弱ってごま葉枯病が発生しやすい。減農薬栽培により窒素肥料の施用量が少ない場合でも、夏季が高温になると多発生することがある。保菌種子や被害わらが第一次伝染源で、畦畔に生じた雑草のアシカキに発生したごま葉枯病が稲に伝染することもある。このため、雑草管理も重要な耕種的な対策技術となる。マンガンを含有する肥料の土壌混和が有効だが、本田で発生が多いことを確認した場合は、水和剤か粉剤を穂ばらみ期から穂ぞろい期10日後に散布する。予防的に出穂期21~14日前に粒剤を散布する方法もある。

もみ枯細菌病

 育苗期に葉の基部が白化して苗腐敗を引き起こす種子伝染性の病害である。茎葉の病徴は本田では見られないが、徐々に上位葉に病原細菌が移動して出穂期に穂が感染し、発病して減収を引き起こす。被害穂は不稔(ふねん)により傾穂せず立って見えるので容易に見つけられる。対策としては、種子消毒剤やは種時処理剤を用いて苗腐敗症を抑制する。催芽時の温度が28度より高いと発病を助長するので温度管理を徹底する。本田では水面施用剤をたん水散布する方法もある。

水稲の害虫

飛来ウンカの状況把握
カメムシは増加傾向に ヒメトビ防除の徹底を

農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域
病害虫防除支援技術グループ長補佐
平江雅宏

 2021年は、海外飛来性害虫のトビイロウンカの飛来が5月に初確認されるなど、例年と比べて早い傾向だった。6月中旬から7月にかけても本種の断続的な飛来と発生が認められたため、九州、近畿、東海地域の5府県から注意報が延べ7件発表された。また、北日本では夏季の日照が多く気温もかなり高く推移したため、斑点米カメムシ類の発生に好適な条件となり、12道県(延べ14件)から注意報が発表された。この他、茨城県からヒメトビウンカによって媒介されるイネ縞葉枯病に関して延べ2件の注意報が発表された。ここではこのような発生動向を踏まえ、主要な害虫の防除対策のポイントについて解説する。

2021年にトビイロウンカに対する注意報が出た府県
2021年にトビイロウンカに対する注意報が出た府県
2021年に斑点米カメムシ類に対する注意報が出た道県
2021年に斑点米カメムシ類に対する注意報が出た道県

トビイロウンカ、セジロウンカ

 トビイロウンカとセジロウンカは日本では越冬が不可能だが、毎年、梅雨時期に中国南部などから下層ジェット気流に乗って日本国内の水田に飛来する。九州地域を中心として西日本で飛来が多い傾向にあるが、飛来時期・飛来量・飛来回数は年によって変動するため、病害虫防除所などから発表される情報で飛来状況を把握し、その後の発生について注意する必要がある。

 防除対策としては育苗箱施用剤の利用と本田殺虫剤散布が挙げられるが、一部殺虫剤に対し薬剤感受性が低下している事例が報告されているため、薬剤の選定には注意する。両種による被害が警戒される地域では、育苗箱施用剤による対策に加え、必要に応じて適期に本田防除を実施する。トビイロウンカ多飛来時は中期・後期の基幹防除、臨機防除を徹底することが大切だ。また、本田防除の場合は、薬剤がウンカ類の生息場所である稲の株元まで十分かかるよう心掛ける。 

斑点米カメムシ類

イネカメムシ
イネカメムシ

 斑点米カメムシ類は水田畦畔(けいはん)や休耕田にあるイネ科雑草などで増殖し、稲の出穂とともに水田に侵入する。成虫や幼虫がもみから玄米の汁を吸うことによって米粒の一部または全体が変色・変形する斑点米を発生させる。斑点米カメムシ類は全国的に多発生傾向が続いており、発生地域では適切な防除対策を行う必要がある。また、関東以西でイネカメムシの発生が近年増加傾向にある。本種によって登熟初期の穂が加害されると不稔(ふねん)粒が発生し減収する場合があるため注意を要する。

 斑点米カメムシ類の防除対策としてまず重要なのは、水田周辺の雑草管理による発生量の抑制だ。農道や畦畔の雑草を稲の出穂1、2週間前までに刈り取り、稲の出穂前後の期間中にイネ科雑草の穂が出ないように管理することで、水田への侵入量を減らす。また、水田周辺だけでなく、水田内に雑草が発生しないよう適切に管理することも大切だ。

 本田での薬剤防除は稲出穂後の殺虫剤散布が基本となる。一般に穂ぞろい期から出穂10日後に散布し、発生量が多い場合はその7~10日後に追加散布する。ただし、カメムシの種類や発生量、散布薬剤によって適切な散布時期や散布回数に若干の違いがあるので、病害虫防除所などの情報、指導を参考にして防除を行う。

イネ縞葉枯病(ヒメトビウンカ)

 ヒメトビウンカによって主に媒介されるイネ縞葉枯病は、北海道の他、関東から九州の一部地域で発生が認められている。防除対策としては媒介虫であるヒメトビウンカの防除が基本となる。育苗箱施用剤を用いた初期防除や本田防除を行い、水田飛来時期のヒメトビウンカ成虫や次世代幼虫密度を減らすことにより被害軽減が期待できる。ただし、早期移植の稲では媒介虫の水田飛来前に育苗箱施用剤の効果が低下する場合や、地域によっては薬剤感受性の低下により防除効果が低くなる場合があるため、病害虫防除所などの情報を参考にして防除を行う。

 耕種的な対策として、稲刈り取り後の水田耕起によって、発病株のヒコバエを取り除きウイルス獲得源を減らす方法や、畦畔や周辺雑草地の管理により媒介虫の越冬場所であるイネ科雑草を除去して越冬量を減らす方法などがある。また、イネ縞葉枯病の常発地域では抵抗性品種の利用も有効な対策となる。

水稲の雑草

適切な圃場管理が効果高める

(公財)日本植物調節剤研究協会
技術部 技術部長 田中十城

 水田雑草の種類は約200種ともいわれ多様であり、除草剤を適期に散布できないと枯れ残ったり、後から発生したりする。また、多くの水稲用除草剤は、たん水状態で散布され除草成分が田面水中を広がることから、畑地での除草剤散布に比べ散布が容易で効果むらになりにくい反面、漏水などにより効果が変動しやすい。効果的な雑草防除には、水田雑草や除草剤に関する知識と適切な圃場(ほじょう)管理が必要だ。

水田雑草の種類と特徴

 雑草は、繁殖方法により一年生雑草と多年生雑草とに大別される。

 一年生雑草は種子で繁殖する雑草(ノビエ、コナギなど)で、生産する種子の量は非常に多く、10年以上という調査結果があるほど土壌中での寿命も長い。中には、田面が露出すると発生してくる雑草(クサネム、タウコギなど)もある。これらの雑草が発生する水深が浅く田面が露出しやすい箇所は、除草剤が広がりにくく雑草が残りやすいので、丁寧な均平作業や水管理が必要だ。

 多年生雑草は、土壌中の塊茎や根茎などの繁殖体に栄養分を蓄え、翌年にそこから芽を出す雑草である。マツバイ、ウリカワ、ミズガヤツリ、ヒルムシロ、セリ、オモダカ、クログワイなどがある。ホタルイは越冬する場合があるため多年生雑草に分類されているが、水田では種子からの発生が多く見られる。多年生雑草が作る塊茎は、一年生雑草の種子数に比べ少ないが、地下のやや深いところからの発生が可能であり、数個の芽を持つものもある。ただ、土壌中での寿命は1年から長くて数年と種子に比べて短い。

アゼナ
アゼナ
ウリカワ
ウリカワ
オモダカ
オモダカ
コナギ
コナギ

水稲用除草剤の種類

 水稲用除草剤は、一発処理剤、初期剤、中・後期剤に大別される。

 一発処理剤は、水田に発生する主要な一年生雑草や多年生雑草に効果が高く、効果の持続期間も長い。条件の良い水田で正しく使えば、文字通り1回の処理で除草を済ますことができる。問題雑草と呼ばれるオモダカ、クログワイ、コウキヤガラ、シズイなどに対しては、後処理剤との体系処理を基本としている。最近では、体系処理と同等の効果が期待できる一発処理剤(問題雑草一発処理剤)も市販されており、除草剤の散布回数を減らすことに貢献できると期待されている。

 初期剤は、主に体系処理の前処理として田植え前後の時期に使用し、代かき後早い時期から発生してくる一年生雑草などを抑えることができる。ただし、効果の持続期間が比較的短いので後処理剤の準備が必要だ。

 中・後期剤は、主に体系処理の後処理として使用し、前処理剤で防除できなかった草種、あるいは前処理剤の効果が切れて発生してきた草種を防除対象としている。散布器具を用いて落水状態で散布する剤もある。落水散布の後は、落水を維持するのかたん水にするのかをラベルで確認して適切な水管理を行う。

除草剤の選定

 除草剤を散布し、残った雑草があった場合は、使用した除草剤名、散布時期、雑草名、発生量などの情報を記録しておき、次年度の除草剤選択の参考にすると良い。例えば、例年防除できていたコナギやホタルイなどが大量に残存していれば、SU抵抗性雑草の発生を疑い、それらに効果がある一発処理剤、あるいは体系処理に切り替えてみる。オモダカ、クログワイの問題残草が見られた場合は、有効な体系処理を計画するか、それらに対して体系処理と同等の効果を有する一発処理剤の散布を検討してみてはいかがだろう。

イボクサ増殖期
イボクサ増殖期
クログワイ多発水田
クログワイ多発水田

除草剤使用に当たっての留意点

 除草剤の使用前にまずラベルを読み、適用表と効果・薬害に関する注意事項を確認する。薬害発生に関係するので、植え付け精度や砂壌土水田での使用には注意する。また、気温が高く雑草の生育が早い年では雑草の限界葉期を越えないよう早めの散布を心掛ける。除草剤処理後7日間は特に水尻やモグラ穴などからの田面水の流出に注意し、掛け流しはしない。水持ちを良くするため耕起・代かきは丁寧に行い、水田の均平化を図り、畦畔(けいはん)は補修しておく。処理前後の適切な水管理は、除草効果だけでなく、除草剤が水田外へ流出するのを防止するためにも極めて大切なことである。

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