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保存版 防除特集

企画・制作 日本農業新聞 広告部

保存版 防除特集2022 企画・制作=日本農業新聞・広告部

野菜の病害

温暖化で発生しやすく 虫媒性も増加

農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域
生物的病害虫防除グループ長
窪田昌春

 野菜の病害においても近年の温暖化の影響か、高温で発生しやすい病害の話題を耳にすることが多くなっている。施設栽培ではトマト褐色輪紋病、ナス黒枯病、キュウリ褐斑病などがあり、一部の虫媒性ウイルスの分布の東進、北上も続いている。土壌病害では、ナス科作物青枯病の発生期の拡大や白絹病発生事例などが聞かれる。

育苗時の病害対策

 種子から栽培を行う場合には、種子伝染病を防ぐために消毒済みの種子を用い、育苗時の病害は農薬などで厳重に防除する。種子伝染病では、苗の腐敗、立ち枯れ、茎葉 の茶~黒色病斑などが表れる。育苗時にはできる限り消毒済みや新しい培養土を用い、施設内や雨よけ下で、水はけが良い条件で栽培する。急速に感染が広がる苗立枯病や疫病などの土壌病害には特に注意が必要である。 購入苗では、健全かどうかを十分に確認し、異常が認められる苗は定植しない。

施設栽培野菜の病害対策

 施設栽培では、空気伝染する地上部病害の対策が必須である。野菜全般の灰色かび病、うどんこ病、べと病、トマトでは葉かび病、すすかび病、褐色輪紋病などに注意が必要だ。これらの病原菌では、病斑上に大量に形成された胞子が風で分散してまん延する。耕種的には、換気扇や循環扇を設置し、葉かきをこまめに行って風通しの良い栽培環境づくりに努める。また、高畝やマルチにより土壌からの湿気を防ぐ。支柱やハウス被覆材に付着した病原菌胞子も感染源となるため、これらの資材を塩素系などの消毒剤で処理するのが望ましい。このような胞子を大量に形成する病原菌では、薬剤耐性菌が発生しやすい。薬剤耐性菌の防除には、多作用点阻害剤を基幹として、複数の剤をローテーション散布する。施設野菜では、コナジラミ類やアザミウマ類などの微小害虫に媒介されるウイルス病も発生しやすい。これらの媒介虫は、殺虫剤のほか、天敵や気門封鎖剤など、さまざまな資材と技術を用いたIPMによって防除する。

キャベツセル苗のべと病による株や葉の枯れ
キャベツセル苗のべと病による株や葉の枯れ
トマトうどんこ病
トマトうどんこ病
トマト黄化葉巻病
トマト黄化葉巻病
キャベツ黒腐病
キャベツ黒腐病

 コナジラミに媒介される主なウイルス病にはトマト黄化葉巻病、黄化病がある。アザミウマ類に媒介されるウイルス病は、各種の植物にえそ病斑を作るウイルス群であり、トマトやウリ科作物の黄化えそ病、ネギえそ条斑病などを起こす。

土壌病害対策

 土壌病害では作物の地上部がしおれ、葉が黄化する場合もある。多くの場合、茎地際部の病斑や腐敗、根での腐敗や病斑、こぶなどが見られる。各種作物の萎凋(いちょう)病、黄化萎凋病、苗立枯病、疫病、白絹病、アブラナ科作物の根こぶ病、種々の線虫による寄生などがある。

 土壌病害が発生した圃場(ほじょう)では、土壌消毒が防除の基本となる。粉剤、液剤、錠剤などの土壌消毒剤が市販されている。これらを土壌に処理後、マルチ被覆すると、揮発した薬効成分により土壌が薫蒸されて、消毒効果が現われる。農薬を使わない太陽熱消毒や還元消毒も行われている。

 太陽熱消毒では、高温期に圃場に灌水(かんすい)し、マルチ被覆して土壌を高温に保つことで消毒する。還元消毒では、太陽熱消毒の手順に、土壌への有機物投入を加える。有機物が腐敗して還元状態となって消毒される。還元消毒では、太陽熱消毒ほどの高温は必要ない。

露地栽培野菜の病害対策

 露地栽培野菜では、土壌病害に加え、降雨などによって土壌から跳ね上がって茎葉に発生する病害や、土壌と接触した茎葉から広がる病害が問題となる。

 根菜類の軟腐病、アブラナ科作物の黒斑細菌病、黒腐病、レタス腐敗病などの細菌病や、菌核病、疫病、株腐病、ウリ科作物炭そ病などの被害が大きい。これらの病原菌の跳ね上げを防ぐマルチ被覆が有効だが、多発圃場では土壌消毒を行う必要がある。細菌病に使用できる農薬種は少なく防除が難しい。

 細菌病は高温多湿条件で発生しやすいため、降雨前からの予防的防除が望ましい。病原菌は水とともに移動するため、大雨で作物が冠水した場合は、短時間であっても農薬散布を行う。風でできる傷からも感染しやすいため、強風雨時にも防除を行う。

野菜の害虫

効果ある殺虫剤の選択を

農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域長 長坂幸吉

 日本には数多くの害虫がいるが、農林有害動物・昆虫名鑑(2006)には3096種が記載されている。これらがすべて常に問題となるわけではなく、主要な害虫とされているのは200種類程度である。

 都道府県が発表する発生予報や注意報に出てくる害虫が主な防除対象の種類となる。野菜類の害虫について、過去10年間に都道府県から発表された注意報を集計すると、チョウ目害虫が114件と最も多く、次いで、ハダニ類(71件)、アザミウマ類(36件)、アブラムシ類(7件)、コナジラミ類(7件)、ハモグリバエ類(5件)などとなる。ハダニ類は、そのほとんどがイチゴのナミハダニであり、チョウ目害虫であるハスモンヨトウ(35件)やシロイチモジヨトウ(35件)よりも多い。ここでは、チョウ目害虫と微小害虫を分けて、それぞれの生態や防除について解説する。

チョウ目害虫の防除

 病害虫発生予察情報に多く出てくるチョウ目害虫はハスモンヨトウ、シロイチモジヨトウ、オオタバコガ、コナガ、ヨトウムシ類、ハイマダラノメイガ、ネキリムシ類などだ。この他、モンシロチョウ、ウワバ類などにも注意が必要だ。 注意報の多いハスモンヨトウは、おおむね、1年に4、5世代を繰り返し、夏から秋に多発する。年によって発生量が大きく変動する。葉に産み付けられた卵塊からふ化した幼虫は始めのうちは集合して葉を加害する。成長に伴って分散し、昼間は日陰や地際部に潜るようになる。殺虫剤散布は、分散する前の比較的若齢の幼虫に実施するのが効果的だ。圃場(ほじょう)を見回り、かすり状になった葉を見つけることが重要となる。シロイチモジヨトウ、オオタバコガ、コナガなどは殺虫剤に対して感受性が低下している場合があるので、普及・指導情報などを参考にして効果のある殺虫剤を選定するとともに、IRACコードを確認して同一系統の殺虫剤を連用しないように注意する。ヨトウガ類やヤガ類への物理的な防除方法としては、防虫ネット、黄色蛍光灯の利用が挙げられる。この他、近年では超音波発生装置を使った防除が試みられている。コウモリが餌を探すときに発する超音波をヨトウガ類やヤガ類が避ける性質を利用した防除法だ。

オオタバコガ
オオタバコガ
コナガ
コナガ
ハイマダラノメイガ
ハイマダラノメイガ
ハスモンヨトウ
ハスモンヨトウ

微小害虫の防除

 微小害虫のうち、イチゴに発生するナミハダニは殺ダニ剤に抵抗性を発達させやすく、難防除害虫として知られる。そのため、チリカブリダニやミヤコカブリダニといった天敵製剤を使った防除が普及しつつある。また、苗からのハダニの持ち込みを防ぐために、高濃度の炭酸ガスや高温の水蒸気を利用した防除技術の活用も始まっている。野菜全般では、アザミウマ類、アブラムシ類、コナジラミ類、ハモグリバエ類も注意が必要だ。いずれも、殺虫剤に対する感受性が低下している場合があるので、効果のある殺虫剤を適切に選定し、IRACコードを確認して同一系統の殺虫剤の連用を避ける。アザミウマ類やコナジラミ類は、病気の原因となるウイルス類を媒介することでも大きな問題となっている。こうした害虫に対しては、「入れない」「増やさない」「出さない」対策を地域全体で心掛けることが重要だ。栽培施設に紫外線カットフィルムを被覆したり、光反射シートを敷設したり、開口部には目合いの細かい防虫ネットを展張したり して侵入を防止する。栽培終了後には薬剤抵抗性を発達させた害虫類やウイルス保毒虫を出さないように蒸し込みや閉め込みを行う。施設内で増やさないために、施設のピーマン、ナス、キュウリなどで問題となるコナジラミ類、アザミウマ類、チャノホコリダニ類には、スワルスキーカブリダニ製剤など天敵の利用が進んでいる。土着天敵として利用されていたタバコカスミカメについて も、製剤が市販されるようになった。

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