秋田に移住し、夏秋いちごの産地化のために奔走しているのが、NTTアグリテクノロジー社員の中戸川将大さん(42)だ。もともと、NTT東日本グループの営業やさまざまな地域の農業プロジェクト推進など、企業の前線で活躍してきた中戸川さんが、地域に根差した仕事を始めたのには理由があった。
「スマート農業や通信インフラは、困っている農業を助けることができるが、それは地域で生産者がもうかる農業経営を確立できていることが前提。地域で生産者が減り、遊休農地も出ている状況を何とかしなければと考えた」
そこで目を付けたのが夏秋いちごだった。需要の大きさに加え、県内の冷涼な気候にも適している。高設栽培を導入すれば作業負担を減らすことができ、新規就農者や新規参入者も取り組みやすくなる。中戸川さんは、北海道など先行産地を訪問して生産技術を研究した。
加えて使われていなかった潟上市のハウスを見つけ出し、生産者や市の理解を得て同社ファームとしてリフォーム。24年には夏秋栽培に向くいちご「夏のしずく」と「すずあかね」の本格栽培に取り組み、研究機関からは「初めてとは思えない上出来」と太鼓判を押してもらうことができた。

果形よく仕上がった夏秋いちご「秋田夏響」
中戸川さんは「初めは『外から来た人が変わったことをしているな』と思われていたかもしれない。でも関係者にしっかりと会って話し、夏秋いちごの有望さや栽培の見立てなどを伝えることで、だんだんと信頼を強めてくれた。それが何よりうれしい」と振り返る。
中戸川さんの取り組みを受け、夏秋いちごの県内生産者は増加した。自社ファームの栽培管理の情報は包み隠さず生産者に提供する。現地研修の他、オンラインのミーティングや遠隔営農支援の仕組みも活用した講習会も行い、仲間の困りごとの解決に生産者全員で当たり、生産者の技術向上を支えてきた。
出口戦略についても練り上げた。生産者で協議会をつくり、「夏のしずく」を「秋田夏響」のブランド名で展開することを決め、消費者への知名度アップを狙う。青果の有力な販売先は、夏でも新鮮でおいしいいちごを使いたいケーキなどの洋生菓子店。パティシエと生産者の意見交換の場なども設けたところ「生産者の思いや生産現場を知ることは、菓子作りのアイデアにつながる」と好評だった。
県も、地域の生産者らの思いに応える形で、事業を応援するプログラム「夢ある秋田産食料供給力向上支援事業」を準備した。
また県と連携し、動画形式の夏秋いちご栽培マニュアルなども制作。近いうちに公開する予定だ。
