夏場の酷暑の影響で、多くの産地で夏秋トマトの安定出荷が困難になりつつある。そんな中でも、2年連続でトマト販売額過去最高を更新したのが岐阜県の飛騨蔬菜(そさい)出荷組合トマト部会だ。耐暑性品種の導入や品質向上、規模拡大、高冷地としての地の利を生かしたトマト栽培を進めた結果、2024、25年と販売額を更新。さらに、5年で35億円から72億円へと倍増し、産地全体の収益力が飛躍的に高まっている。
部会で品種を統一
可販収量約3割増
同部会は夏秋トマトの出荷量が全国トップクラスで、「飛騨トマト」ブランドとして知られている。364人の部会員が133haで大玉トマトを中心に栽培する。
高温対策で大きな成果を上げたのは、耐暑性品種の導入だ。従来品種に比べ、着果性や裂果耐性に優れ、食味や日持ちが良いと判断した。その結果、可販収量が2、3割増加。従来、裂果などで加工用に回していたトマトも半減し、収入増に直結した。25年からは部会全体で同品種を導入し、今年産は数量・金額ともに過去最高を更新する見込みだ。
飛騨地方でも夏は暑いが、標高800~900mの高地にハウスを建てることで、平地より平均気温が2、3度低い。特に夜温が下がるため、夏の記録的な高温が続く中でもトマトの生育に適した環境を確保する生産者もいる。

収量3割超アップ
作型分散し安定供給
11年かけ段階導入 着果良く裂果は減少
部会長の中野俊彦さん(51)もその一人だ。3haのハウスでトマトを生産するが、ハウスの6割を800m以上の高地に設けており、今後の気候変動を見越した生産に取り組む。
中野部会長は持続可能な産地づくりへ、産地を挙げての新品種の導入を主導した。耐暑性品種「麗月」の試験栽培が始まったのは今から約11年前。ごく少数の役員でスタートし、年々導入面積を拡大していった。
2020年には全体の約20%で試験的に耐暑性品種を栽培し、翌21年には本格導入が始まり、50%まで拡大。22年には60%、23年には「フリー」として制限なく作付けできるようになり、実質90%以上にまで増加した。さらに25年には、部会として全面積で導入する方針を決定した。
この長期的な試験と段階的な導入により、同品種のJAひだ管内での高い着果性や裂果の少なさが実証でき、ロス率の大幅な減少と収量増加につながった。部会全体の10a収量は、同品種導入前の8t台から11t超に増加。10a収量を増やし、販売額過去最高の更新を実現した。
産地の成長を支えているもう一つの柱が、作型の分散化だ。出荷時期を前半・後半に分けて分散させることで、市場への安定供給と価格競争力の維持を実現している。
24年の作型構成は早期が約15~16%、中期が75%、晩期が約9%。標高差を生かし、定植日を3回程度に分けることで出荷時期を分散させている。
市場からも「飛騨は安定的にトマトを供給してくれる」と高い評価を受けており、今後も産地の強みとして生かしていく方針だ。

若手が積極的に規模拡大 規格統一で流通効率化
現在、飛騨蔬菜出荷組合は750人の組合員がおり、トマト部会には364人が所属する。新規就農者とリタイヤする高齢生産者がいるため部会員数は横ばいだが、栽培面積は着実に増加している。
新規就農者の増加も大きな追い風となっている。親元就農だけでなく、新天地で農業を始める若手も増え、彼らは「しっかり管理して10a収量を上げる」という意識が高いのが特徴だという。この姿勢が既存の生産者にも良い刺激を与え、産地全体の10a収量向上につながっている。トマトをはじめとする産地全体では、過去10年で約250人が就農し、地域農業の活性化に大きく貢献している。
リタイアする生産者を新規就農者が補い、既存の若手や新規就農者が積極的に規模拡大に取り組むことで、産地全体の生産力が向上している。中野部会長自身も01年に親元就農し、スタート時は70aだったハウスを、現在は3haまで規模拡大した。

今後も、組合員の世代交代と規模拡大が進むことで、さらなる生産力強化が期待されている。
24年度に行った「規格の統一」による流通の効率化も、大きな成果を上げている。従来はA・B・Cの3等級で出荷していたが、「物流2024年問題」への対応もあり、規格をA・Bの二つに統一した。これにより、トラックへの積み込みや分荷作業、選果場での仕分け作業が大幅に効率化され、作業時間は1時間ほど短縮されたという。

規格の統一に伴い、これまでC等級だったトマトがB等級として扱われるようになり、価格もこれまでのB等級と同じ水準で販売されている。
そのため、以前はC等級として安価で取引されていたトマトが、より高い価格で売れるようになり、生産者にとっては大きなプラスとなった。
この背景には、耐暑性品種の段階的な導入による品質向上もある。下位等級の発生が大きく減少した。品質の底上げと単価の向上という〝一挙両得〟の効果が生まれたという。
産地に辛い過去
初心忘れずに
飛騨蔬菜出荷組合 トマト部会 部会長 中野俊彦さん(51)

今、飛騨のトマト産地は好調だが、「初心を忘れないこと」を特に心がけている。近年は新規就農者も増え、産地全体が右肩上がりの成長を続けているが、今の若い世代は、産地が元気を失っていた過去を知らない。
飛騨のトマト産地は、かつては台風被害や生産者の減少など、厳しい時期も経験した。
そうした苦しい歴史を知る世代が少なくなりつつある今だからこそ、「調子の良い時ばかりではない」という現実を若い生産者たちに伝えることを大切にしている。
