冬春取りトマトの品種特性

2024.06.03

品種選びと最新動向

農研機構野菜花き研究部門 野菜花き品種育成研究領域領域長 松永 啓

 全国で栽培されているトマトだが、出荷用途や栽培方法、気候、病害虫の発生状況に応じて、多種多様な品種が取り扱われている。品種選びの参考として冬春取りトマト品種の特性(農研機構・野菜花き研究部門監修)を紹介する。

大玉トマト・ミディ(中玉)トマト

 冬春期のトマト栽培では、収穫期間が晩秋から初夏までの長期間に及ぶ作型も増えている。これらの作型では、地球温暖化の影響もあり、栽培後期の春から初夏には高温条件下での栽培になることが多い。高温下の栽培では、花粉稔性の低下により、25℃以上の高温で着果率が下がり、30℃以上の高温ではほとんど着果しない。また、高温条件下では、着果しても受精不良による不良果になることが多い。トマト果実を正常に着果・肥大させるため、「トマトトーン」といった植物成長調整剤などが利用されているが、これらの薬剤は適正使用しないと乱形果などの不良果が多発する可能性がある。一方、近年、高温期の栽培でも不良果の発生が少ない高温耐性を有する品種が増えている。高温耐性品種には、栽培管理しやすい草姿、高収量性、良食味などを併せ持つ品種も見られる。そのため、品種選定では、これらの点にも注目したい。さらに、黄化葉巻病抵抗性品種が着々と増えているが、硬玉を特徴とした品種も増えているので、これらの形質も併せて着目したい。

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注1)品種の選定については、メーカーの聞き取りに基づき、農研機構・野菜花き研究部門が監修 注2)各品種の抵抗性の強弱は、種苗会社のカタログ、ホームページなどを参照 注3)病害抵抗性は、○=抵抗性あり、△=中程度の抵抗性あり(耐病性を含む) ※①黄化葉巻病抵抗性遺伝子型は、種苗会社が非公表の場合に、△=中程度の抵抗性あり(耐病性含む)とした ※②葉かび病は、○=抵抗性遺伝子がCf‐9または同等レベルの強い抵抗性、△=○よりやや弱い中程度抵抗性とした ※③品種の特徴は、種苗メーカーによるコメント ※④国内育成品種は育成した種苗会社、海外育成品種は国内の販売店などを記載

ミニトマト

 これまで、ミニトマトの果形は、球形が一般的であった。しかし、近年、プラム型の品種の人気が高まっていることもあって、プラム型など球形以外の品種も増えている。果色も主流は赤色だが、黄色やオレンジ色などの品種も増えている。スーパーでは、形や色など、見た目の異なる品種を並べて消費者の関心を呼んでいる店もあるので、品種選定の際には着目したい。病害抵抗性も重要な形質であり、特に、最重要病害となっている黄化葉巻病に対しては、年々、抵抗性を有する品種が増えている。この点については、種苗会社のカタログや、新聞記事などによる各品種の評価をチェックしておきたい。国内で黄化葉巻病抵抗性品種が開発され始めた頃は、食味などの点で不十分な品種も多かったが、近年開発された抵抗性品種は、食味の点でも改善されたものが多く、この点にも注目して品種を選びたい。

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注1)品種の選定については、メーカーの聞き取りに基づき、農研機構・野菜花き研究部門が監修 注2)各品種の抵抗性の強弱は、種苗会社のカタログ、ホームページなどを参照 注3)病害抵抗性は、○=抵抗性あり、△=中程度の抵抗性あり(耐病性を含む) ※①黄化葉巻病抵抗性遺伝子型は、種苗会社が非公表の場合に、△=中程度の抵抗性あり(耐病性含む)とした ※②葉かび病は、○=抵抗性遺伝子がCf‐9または同等レベルの強い抵抗性、△=○よりやや弱い中程度抵抗性とした ※③品種の特徴は、種苗メーカーによるコメント ※④国内育成品種は育成した種苗会社、海外育成品種は国内の販売店などを記載

台木用トマト

 地球温暖化の影響もあり、近年、暖冬の年が多い。冬春期のトマト栽培にとって暖冬は、暖房経費削減によるコスト削減が期待できるほか、トマトの生育が良好になるなど、基本的には好条件と言える。しかし、好条件が続くと生育が良くなり過ぎるあまり、植物体の生育のバランスが崩れることがある。そのため、肥培管理も重要だが、生育の良い状態が続いてもバテにくい品種の選定が重要になる。特に、その土台である台木用品種では、穂木の草勢とのバランスや、栽培後半まで良好な生育を維持するためのスタミナなどを考慮した選定が重要となる。また、地球温暖化により、これまで冬期に発生が少なかった青枯病などの土壌病害が発生しやすくなっている。最近は、青枯病に強度抵抗性を示す台木用品種も増えているので、この点にも注意して品種を選定したい。

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注1)主な品種について、各社のカタログやホームページなどを参考に病害抵抗性を判定 ※①褐色根腐病について、タキイ種苗およびサカタのタネの品種は抵抗性強度が3〜4の品種を「△」、5〜6の品種を「○」、7〜9の品種を「 」とした ※②青枯病は各社のカタログで抵抗性強度が5〜7の品種を「○」、8〜9の品種を「 」、抵抗性強度の品種間の差が明記されていないメーカーの品種は「□」とした