夏秋取りトマト特集では、青果担当者やトマト産地の生産部会にアンケートを実施した。特設ウェブサイトでは、アンケート詳細を一挙公開。実需が求めるトマト、産地の課題を紹介する。部会アンケートでは21の部会に産地の困りごとを複数回答で聞いた。困っている病害虫・生理障害で最も多かったのは16部会が挙げた「灰色かび病」。次いで「葉かび病・すすかび病」(15部会)、「コナジラミ類」(13部会)、「裂果」(12部会)、「葉先枯れ」(8部会)と続いた。
病害の概要
「灰色かび病」の発生要因の一つが、カリウム不足で起きる「葉先枯れ」からの菌の侵入。今夏は高温・乾燥によるヨウ素欠乏、難しい水管理で、樹勢のコントロールに苦慮する姿が見られた=グラフ1参照。
害虫「コナジラミ類」に苦慮
最も多かったのは「コナジラミ類」で、13部会が選択。次いで「オオタバコガ」「アザミウマ類」(どちらも7部会)、「ハスモンヨトウ」(4部会)、「トマトキバガ」(3部会)となった=グラフ2参照。
「コナジラミ類」は九州の4部会全てが選んだ。一方、北海道の5部会は選択しなかった。
「コナジラミ類」は多くの野菜や花き類に被害を及ぼす重要害虫の一種。トマトでは葉裏に寄生して吸汁して生育不良などを引き起こすだけでなく、排せつ物は、すす病の原因となる。近年は直接的な被害に加え、タバココナジラミが黄化葉巻病の原因となるウイルスを媒介するとして、多くの産地で警戒を強める。
農水省は今夏、病害虫発生予察で関東、東海、四国、九州などでコナジラミ類の発生が平年より多いと注意を呼び掛けていた。13部会は「頭数調査を行い、生産者へ情報を共有」「発生抑制に向けた雑草対策」「回数制限のない気門封鎖剤の散布」などで防除を徹底していることが分かった。
全国で確認が相次ぐ、「トマトキバガ」は3部会が挙げた。被害の報告は限定的だが、警戒感の高さがうかがえる。
「(黄化葉巻病の)ウイルスの連鎖を断ち切ることを目的とした、栽培期間の徹底およびコナジラミ発生抑制に向けた雑草対策」(九州地方)、「オオタバコガについては、フェロモントラップによる予察、コナジラミはラノーテープで対応、アザミウマについてはUV(紫外線)カットフィルムにJA独自助成」(東北地方)、「UVカットハウスやラノーテープを活用しながら防除暦通りに定期的な薬剤散布を心掛ける」(東海地方) と、総合的病害虫・雑草管理(IPM)で、複雑化する病害虫に対応する産地も目立った。
生理障害
「裂果」対策に栽培管理徹底
困っている生理障害では12部会が「裂果」を選んだ=グラフ3参照。猛暑と干ばつで栽培管理が難しい年となった夏秋取りトマト。2番目に「着色不良」(8部会)、4番目に「尻腐れ果」(7部会)が挙がるなど、異常気象が常態化する中で遮光・遮熱や水管理の難しさがうかがえた。
「裂果」は、幼果期の日焼けや、根からの吸水が活発になる高温期の多かん水などで、果実肥大時に果皮の形成が追い付かなくなることで発生する。高温が続くと発生が増える「着色不良」。主にカルシウム欠乏が原因の「尻腐れ果」は、施肥が十分でも乾燥が続くことで吸収が阻害され、発生するケースが多い。
ウイルスを媒介する害虫が増えたことで防虫ネットの導入を進めたことも温度管理を難しくしている。
6日に発行した本紙「夏秋取りトマト特集」に掲載している部会ごとのアンケート結果では、着果不良や障害果などで収量に伸び悩んだと記載する部会があり、遮熱・遮光対策の重要性を取り上げている。
対策として耐暑性品種への切り替えや遮光ネット、風通しの良い防虫ネット、葉面散布肥料、地力を高める資材の導入を挙げた。品種の力を最大限に引き出す栽培技術に加え、組み合わせる資機材の選択も重要とみる。
取り入れたい資材
高温対策が鍵
14部会が「新品種」を選んだ=グラフ4参照。特に困っている生理障害で最も多かった「裂果」に対して耐性がある品種を求める声が上がった。
「その他」を選んだ東北の部会は「高温対策資材」と回答。猛暑でも育てやすい品種や高温期でも安定生産につなげられる資材が求められている。
「新品種」に次いで多かったのは「有機質肥料」(4部会)、「地域資源肥料」(3部会)。また2部会が「燃油高騰対策資材」を選ぶなど生産コストの上昇が新たな資材の導入のきっかけになりそうだ。
担い手確保対策
人材不足の悩み顕著
担い手対策の質問では、人材不足が顕著となった。担い手確保対策に回答した11部会のうち6部会が、新規就農者の確保に取り組む。地元の地方自治体と協力して「農業の良さを伝えるイベントを開催」など地域のPRや、具体的には研修施設や研修会の充実で就農までをサポートする体制を整えている部会もあった。
担い手確保に力を入れる一方、まずは労働力の確保が急務とする意見も目立った。「繁忙期は親戚の協力」「短期間のパートの採用」と従来の労力確保の他、4部会が「外国人の雇用促進」「特定技能実習生の導入」を挙げた。
1日単位でバイト希望者と生産者をインターネットでつなぐマッチングアプリの利用や、四つ以上の事業者で結成し、通年で職員を雇い、出資事業者に派遣する特定地域づくり事業協同組合の活用を挙げる部会もあり、あらゆる手段で労働力を確保することでトマトの安定生産安定供給を維持する姿勢がみえた。
自由記述の項目でも回答した7部会のうち4部会が人材不足を課題に挙げた。「共選施設の作業員不足」「販売担当者の人材育成」など流通・販売での人材不足の深刻化も浮かび上がった。