病害虫防除のポイント

2025.01.15

 秋冬ネギ栽培では定植後、初夏から秋にかけて病害虫の注意報の発令が頻発する。病害虫のまん延を防ぎ、安定した収量を確保するためには、適切な防除計画を立てる必要がある。本企画では、群馬県農業技術センターに黒腐菌核病、ネギハモグリバエの防除について解説してもらった。

【病害】ネギ黒腐菌核病

[ 特徴と伝染源 ]

 黒腐菌核病は糸状菌の一種による土壌伝染性病害である。ネギだけでなく、タマネギやニラ、ニンニクなどネギ属に感染、発病する。感染すると地上部の葉が枯れ始め、収穫期に掘りあげると葉鞘(ようしょう)部や茎盤部が腐敗し、出荷不能となる。
 腐敗した葉鞘部の表面に、初めに白色の菌糸が生え、その後ゴマ状の黒い小菌核粒が多数形成される【写真①、②】。この菌核を一次伝染源としてネギに感染し、収穫後の残さや腐敗したネギと一緒に土壌中に残存し、次作の伝染源となる。
 本病の発病適温はおおよそ8~20度。菌核はネギが植え付けされると反応し、適温になると発芽し、根や茎盤部に感染する。また、在圃(ざいほ)期間が長いほど発病が多くなることも知られている。近年は気候変動による冬季の平均気温上昇に伴い、感染期間が長くなっていることも発病が多くなる要因と考えられる。

【写真①】 黒腐菌核病発病株
【写真②】 菌核のついたネギ
[ 抵抗性リスクに注意 ]

 数年前までは黒腐菌核病に対する登録薬剤が少なく、土壌伝染性病害であることから、難防除病害として防除に苦慮していた。現在は本病への登録が進み、使用可能な殺菌剤が増えている。中でもピラジフルミド水和剤による苗かん注処理が、簡便な方法で高い効果が得られる。そのため、群馬県の秋冬ネギ栽培では、チェーンポット育苗のトレイに同剤を処理する事例が増えている。
 また、その後は作型に応じて、土寄せ時に殺菌剤を散布するよう指導されていることから、甚大な被害は少なくなっている。
 ただ、ピラジフルミドが属するSDHI剤(FRAC7)は、薬剤抵抗性の発達リスクが中~高とされている。生育期の使用で登録されている殺菌剤もSDHI剤が多いため、抵抗性の発達リスクが高い。
 作用機構の異なる殺菌剤との体系的なローテーション散布が、薬剤抵抗性の発達を未然に防ぐためには重要となる。さらに、ネギ属以外の作物との輪作や緑肥の導入、土壌pHの改善、発病株の除去など耕種的な防除も含めた総合的病害虫・雑草管理(IPM)も本病の発生を防ぐうえで重要である。

群馬県農業技術センター 環境部 病害虫係 技師
新井美優

【害虫】ネギハモグリバエ

[ 2系統の特徴 ]

 ネギハモグリバエにはA系統とB系統が存在する。両系統とも成虫の体長は約2mmで、胸部と腹部が黒く、その他の部分は淡黄色である【写真③】。幼虫はうじ虫状で、成長すると体長約4mmに達する【写真④】。また、さなぎは褐色の俵状で、体長は約3mmである。両系統を形態により識別することは困難である。
 両系統とも成虫は葉の組織内に産卵し、孵化(ふか)した幼虫は葉の内部に潜り込んで葉肉を食害する。幼虫は成長すると葉から脱出して地表または土中でさなぎになる。
 以前からA系統は存在していたが、B系統が2016年に京都府で初確認され、これまでに37都府県に広がっている。群馬県では、21年9月に県中東部地域のネギ圃場で初めて確認された。現在、県内全域のネギ生産地で本種の発生が確認されている。

【写真③】 ネギハモグリバエ成虫
【写真④】 ネギハモグリバエ幼虫
[ B系統による被害 ]

 本種のB系統はA系統と比較して、1葉あたりの幼虫数が多く、集中的に葉肉を食害する傾向がある。
 B系統による初期の食害痕は、A系統と同様に不規則な白線状だが、食害が進むと近接した食害痕が癒合して、葉が白化したようになる【写真⑤、⑥】。

【写真⑤】B系統による被害
【写真⑥】B系統による被害
[ 初期防除徹底を ]

 対策としては、早期発見に努め、発生初期から薬剤による防除を徹底することが重要である。系統の違いによる薬剤抵抗性の発達の差は確認されていないため、薬剤防除にあたっては、「ネギハモグリバエ」または「ハモグリバエ類」に適用のあるものを使用する。
 薬剤抵抗性の発達を防ぐため、同一作用機構分類に属する薬剤の連用を避けるようにする。
 さらに、被害葉や収穫残さは本種の発生源となるため、残さなどは圃場内に放置せず、適切に処分することが有効である。

群馬県農業技術センター
環境部 病害虫係 主任 星野航佑