病害虫防除のポイント

2024.01.16

 ネギ栽培は毎年のように病害虫に関する注意報・特殊報が発令されている。ここでは、千葉県農林総合研究センターの横山とも子氏と勢能瑠世氏に近年問題になっている黒腐菌核病と、発生エリアが拡大している従来とは別系統のネギハモグリバエを中心にネギの病害虫対策について解説してもらった。

病害 ネギ黒腐菌核病

特徴

 黒腐菌核病は、糸状菌の一種(Sclerotium cepivorum)による土壌伝染性の病害である。感染すると最初に葉先枯れが起こり、株全体が生育不良となり、やがて枯死する(写真1)
 収穫期に発病株を掘り上げてみると、地際から軟白部が腐敗し、その上に黒色の菌核が大量に形成され、かさぶた状になる(写真2)
 この菌核が主な伝染源であり、土壌中に長期間生存することが、防除を難しくする一因となっている。
 本菌は、ネギの他にタマネギ、ニンニク、ラッキョウ、ニラなどネギ属に感染する。秋から春の低温に遭遇する期間が長い作型で被害が多い。

写真1 黒腐菌核病が多発した圃場
写真2 発病株

発生動向と対策(千葉県)

 千葉県の秋冬ネギ産地では、2013年ごろからネギ黒腐菌核病の発生が拡大し始めた。18年に行ったアンケートにより、主要産地の約半数の生産者で本病が発生していることが明らかとなり、緊急に対策技術の確立を行った。
 その結果、ピラジフルミド水和剤の苗灌注(かんちゅう)処理の効果が高く、防除効果は5~7カ月間持続すること、生育期には同剤やペンチオピラド水和剤の効果が高く、茎盤部付近の地温が20度以下になり始める9、10月が散布開始適期であることなどを明らかにした(表)。併せて、生産者が発生履歴などに応じて対策を選択できる支援チャートを作成した(農林水産技術会議資料=千葉県・千葉県農林水産技術会議、23年3月)。現在はこれらの技術の普及によって、多発圃場(ほじょう)は減り、発生は沈静化している。
 しかし、作用機作が等しい同系統の薬剤に頼った防除体系となっているため、耐性菌の発生には注意が必要である。
 また、19年のように台風や豪雨により降水量が多い年は、ピラジフルミド水和剤の苗灌注処理の効果が収穫時期まで持続しないため、このような年は苗灌注処理に加え生育期の散布も行う必要がある。

 千葉県農林総合研究センター 病理昆虫研究室 主任上席研究員 横山とも子

害虫 ネギハモグリバエ

特徴

 ネギハモグリバエは主にネギ類に被害を与える害虫である。成虫の大きさは約2㍉で胸と腹が黒く、その他の部分は淡い黄色である(写真3)。幼虫はうじ虫状で、体長約4㍉に達し、さなぎは全長約3㍉で褐色の俵状である。以前から存在しているA系統(従来系統)と19年に京都府で初めて確認されたB系統(新系統)の二つの系統が知られているが、2系統を形態的な特徴で識別することは難しい。
 B系統の発生は全国各地に拡大しており、現在では36都府県で確認されている。

写真3 ネギハモグリバエの成虫

拡大するB系統の被害

 本虫が問題となるのは主に幼虫による葉への食害である。千葉県における主力作型である秋冬取りネギ栽培での被害は夏の終わりごろから徐々に見られ始め、秋になるとさらに拡大する。
 特にB系統はA系統と比較して同じ葉に寄生する幼虫数が多い傾向にあり、集中的な食害が見られる。
 B系統による初期の食害痕はA系統と同じく、不規則な白線状であるが(写真4)、進行すると葉全体に被害が拡大し、食害痕同士が合わさり、表皮が浮いた状態になり、白化したようになる(写真5)。

写真4 ネギハモグリバエB系統による初期の食害痕
写真5 被害が進行したネギ圃場

有効な対策

 防除対策は2系統共に同様で、ネギの栽培期間中は被害の早期発見に努める。被害が見られたら、ネギハモグリバエに適用のある薬剤を散布し、発生初期からの防除を徹底する。
 また、本虫の1世代に要する日数は短いため、薬剤抵抗性が発達する可能性がある。そのため、同系統の薬剤を連用せず、異なる系統の薬剤によるローテーション散布を行う。
 さらに、本虫はさなぎになり、地表もしくは土中で越冬する。これらのさなぎが次年度の発生源となるため、他の病害虫対策も兼ねて、適用のある剤で収穫後に土壌消毒を行うことも有効だ。
 これらの防除手法を組み合わせて発生密度を低く維持することが本虫の防除対策として重要である。

 千葉県農林総合研究センター 病理昆虫研究室 研究員 勢能瑠世