指で挟むだけ 重量規格推定
イチゴ生産にかかる総作業時間のうち、約半分を人手による収穫・選果・パック詰め作業が占める。従来、これらの作業の省力化を目指す研究としては、もっぱら果実を傷つけにくい機械やロボットの開発が主であった。一方、小規模農家では、大型機械・ロボットの導入には経済面などで課題が多い。そこで、農研機構と芝浦工業大学は、戦略的スマート農業技術等の開発・改良事業(JPJ011397)により、これまでにない簡便・安価な省力化技術として、ウェアラブル選果補助デバイスを開発した。
デバイス開発のきっかけは「測りやノギスを使わずに果実の規格が分かれば、どこでも素早く選果作業ができる」とのアイデアで、農研機構の担当者の発案に基づき、芝浦工業大学の担当者が実現した。完成したデバイスは片手に装着する仕様で、本体は腕時計とほぼ同じ大きさ・形状である。本体からは1本のケーブルが伸び、ケーブルの先端は人差し指に装着する。また、親指には小型のネオジム磁石を装着する。ケーブルの先端には磁気センサーが埋め込まれており、ネオジム磁石から距離に応じて発される磁場を計測、数値化することができる。磁場を基に親指と人差し指との距離、つまり2本の指で挟んだ果実の径を算出し、重量・規格を推定する仕組みである。推定結果は本体の液晶モニタに表示するため、機械に関する知識がなくても使用できる。

作業時間や傷 従来より削減
ウェアラブル選果デバイスの用途はいくつか想定されるが、特に省力効果が高い用途の一つが圃場(ほじょう)選果である。通常、イチゴは圃場で収穫作業を、選果場で選果・パック詰め作業を行う。一方、デバイスを装着すれば、果実を摘み取ると同時に選果しパック詰めすることができる。実際に、香川県内の高設栽培イチゴハウスにて、デバイスを装着して収穫と同時に選果・パック詰め(宙づり型容器)し、選果場を利用する従来方法との所要時間の差を比較した。その結果、デバイスを用いた圃場選果では作業時間が従来比で14.5%削減された。また、圃場選果では果実と手指との接触回数が減ることで、果実表面に生じる微細な傷が最大53.6%減少した。もちろん、圃場でパック詰めする場合、詰め終えた容器を速やかに冷蔵庫へ運ぶ必要がある。圃場から冷蔵庫までが遠いなどの場合、圃場ではパック詰めを行わず、デバイスを用いた粗選別のみを行うといった運用も可能である。
ウェアラブル選果デバイスはイチゴ以外にも、ミニトマトやかんきつなどの多様な小型青果物で利用可能である。今後、デバイスの用途を拡大するとともに、各種センサーを追加搭載し、糖度や色といった品質に基づく選果を実現する予定である。

岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域 講師 (元農研機構 西日本農業研究センター 主任研究員) 遠藤 みのり |