岐阜県関市の川村雄祐さん(28)は、農家と農業系ユーチューバーの“二刀流”を軌道に乗せた。祖父母から受け継いだ冬春トマトを柱に、露地野菜の直売と動画配信で新時代の農業経営を突き進む。チャンネル登録者数は農業系ユーチューバーとして全国トップクラスの17.3万人超(5月30日時点)。ファンの獲得だけでなく、動画配信による収益は「トマトの売り上げを補完する」存在として、経営を支える収入源となっている。
家庭菜園向け動画を配信 悩み解決、お手本が人気
トマトの収穫シーズン後半を迎えた4月下旬。川村さんの一日はとにかく忙しい。午前4時半に起床して5時から収穫、6時から車を走らせて各地に出荷し、10時に戻るとトマトの管理作業と動画の撮影に取り掛かる。午後5時に農作業に区切りを付け、翌日の出荷と作業の段取りを終えるのは8時ごろ。動画の編集と配信作業はその後、深夜に及ぶこともある。
1年半の農業研修を経て祖父からハウスを引き継ぎ、2019年にいきなり一人で冬春トマトの栽培をスタートした。動画配信を始めたのは翌20年。トマトが病害で大打撃を受けたのがきっかけだった。
対策をインターネットで検索しても簡単に見つからず、情報を文字で読んでも分かりにくい。そんなとき、家庭菜園の栽培を教える動画が分かりやすく目を引いた。
自分ならもっと踏み込んだ内容を教えられるのでは――。試しに動画配信を始めることにした。
川村さんのユーチューブチャンネル「たわらファーム 農園ものがたり」は、家庭菜園向けに野菜の育て方を伝える。定植、誘引など時期に応じた作業を畑で実演して紹介する。
「農家として当たり前のことを、ありのまま伝える」をモットーにしたところ、農家の等身大の日常が関心を集めた。
当初は再生数が伸び悩んだが、家庭菜園の定植や脇芽取りといった作業が必要な時期に合わせて、視聴者が悩みそうな作業の解決策とお手本を丁寧に分かりやすく実演する動画を配信。コロナ禍での家庭菜園ブームにも乗って人気に火が付き、再生数や登録者数が増加した。
配信収益が経営下支え スタッフと週24本投稿
幼少のころから農業が好きで、祖父母の農作業を手伝ってきた川村さん。動画配信の収益を原資に規模拡大や新規品目の導入、スタッフの雇用につなげた。主力のトマトだけでなく、祖父母や周囲に教わりながら露地野菜にも力を注ぎ、いまはナス、キュウリ、オクラ、タマネギなど10数種類を栽培する。
運営するのは、野菜の育て方を伝える主力チャンネルと農家の日常を伝えるチャンネルなど計4チャンネル。川村さんと従業員が分担して週に24本投稿する。過去の投稿動画1700本も閲覧数を集め、月の再生回数は4チャンネル合計で660万回に達する農業系ユーチューバーとして定着した。2022年には発信力が認められ、地元のJAめぐみの「農業の応援団」特別団員に任命された。
農業は、日々の営みそのものが尽きることのない動画ネタとなる。品目の増加と雇用によって切れ目のない動画配信が可能となり、視聴者を引き寄せて離さない好循環を生む。
今期は正職員4人とパート従業員2人を雇用し、トマト16aと直売野菜10a、トウモロコシ1ha、ブロッコリー80a、ハクサイ80aに拡大。観光イチゴ園16aもスタートし、周年で収益が出る経営を築いた。
ユーチューブを始めた翌年の21年夏、トマトに原因不明の病害が発生して「半分ぐらい植え直しを強いられた」。この大打撃も「動画配信の収益で何とか持ちこたえられた」と、経営リスクの軽減につながっている。「大学は経営学部。リスク管理だけは役に立ってます」と笑う。
登録者数17.3万人獲得! 川村さん流 魅せる、観られる動画のポイント
- 視聴者の目線に立つ
たくさん取れるコツ、失敗しない方法など、「自分が伝えたい情報」ではなく「視聴者が知りたい情報」を満たす内容にする - 1本10分程度にまとめる
伝える内容の要点を押さえて細かく丁寧に説明し、1本10分程度にまとめる。情報量の少ない大ざっぱな内容はダメ - テロップを入れる
動画中の細かい動きや分かりにくい言葉には、テロップを積極的に入れる(聴覚障害者への配慮にも) - 週1回の作戦会議
その週に発信する動画について計画を立てる。行き当たりばったりでなく、その時期に必要な作業や旬の話題の提供につなげる
「たわらファーム 農園ものがたり」
登録者数:17.3万人(2024年5月30日時点)
動画本数:723本
総視聴回数:4567万回
登録日:2020年8月15日