静岡県産ネギは、特に冬場の関西市場で存在感を増す。かつて産地では秋冬ネギの収穫時を襲う黒腐菌核病に悩まされていた。
そんな中、系統の異なる薬剤でローテーションを組み、同病害の抑制に成功。耕種的防除も取り入れ、湿害対策にも力を入れるJA遠州中央の白葱部会を取材した。
発生は1割以下へ
「7年ほど前は、黒腐菌核病で収穫間際のネギを8割ほど廃棄することもあった」と振り返るのは、JA遠州中央白葱部会の内藤直栄部会長(74)だ。
病害が出た圃場(ほじょう)は使えず、畑を転々と替えていった。菌が発生した圃場は、次作に向けて土壌消毒剤を散布、ビニールで被覆するなどして一定の効果は見られたが、根絶には至らなかった。
転機は、系統の異なる薬剤の登場。今は三つの薬剤をローテーション散布することで、黒腐菌核病を抑え込むことに成功。発生は1割以下になり、ほぼ心配することはなくなった。
3剤は「パレード20フロアブル」(有効成分ピラジフルミド)、「セイビアーフロアブル20」(有効成分フルジオキソニル)、「アフェットフロアブル」(有効成分ペンチオピラド)だ。
黒腐菌核病防除の1回目は定植直前。セル成型苗トレイかペーパーポット苗に「パレード20フロアブル」100倍液を灌注(かんちゅう)する。
2回目は3カ月後に「セイビアーフロアブル20」1000倍液を10㌃当たり300㍑、動力噴霧機でホース散布する。
さらに2、3月に収穫するネギは、「アフェットフロアブル」1000倍液を1平方㍍当たり1㍑株元灌注する。3剤のうち、パレードとアフェットは同系統のため、系統の異なるセイビアーを入れることで薬剤耐性を付けない体系を組んだ。5年前のパレードの登録適用後から、部会では同体系を講習会などで徹底する。
近年は、系統の異なる薬剤を組み合わせやすいように、部会の防除資料に農薬の作用機構分類(RACコード)を記載する。
冬場の安定産地に
同JA管内の白ネギ栽培は、天竜川の東側、磐田市と袋井市で栽培する。同部会は現在、部会員124人が52㌶を栽培。うち秋冬ネギは38㌶で910㌧の出荷を目指す。
栽培地は真冬でも一部の山間地を除いて雪が降らないため、冬場に安定的に出荷できる産地として期待されている。
内藤部会長は現在、秋冬50㌃、春25㌃、初夏15㌃の合計90㌃でネギを栽培する。一人で栽培管理をするが、育苗、定植、収穫、出荷調製は、JAに任せている。
JAは生産者を支援するため、作業を機械化一貫体系の形で請け負う。特に育苗、定植作業は部会員の8割以上が利用する。
JAの園芸流通センターの白ねぎ共同育苗施設で、セル成型苗を使った自動プラントにより高品質な苗を提供する。定植、収穫はJAが行う。出荷調製も集出荷貯蔵施設で選別、皮むき、箱詰め、荷造り、鮮度保持貯蔵まで担う。
圃場の排水に注力
内藤部会長は、今作は特に夏場が苦労したという。昨年6月中旬に豪雨、7、8月は猛暑に見舞われ、日照りが続いた。大雨で根が傷んでいたところに暑さが襲い、病害は軟腐病が目立った。
部会では、湿害対策として圃場の排水に力を入れる。耕種的防除で輪作を実施する他、水はけの改善にドリルで穴を開けたり、プラソイラーで硬盤破砕したりしている。
砂質土壌が多いことから、土づくりのため緑肥投入に力を入れ、冬場の収穫後にエン麦をまき、定植前にすき込み地力回復に努めている。
内藤部会長は、施肥では混合堆肥複合肥料を利用。肥料が高騰する中で輸入に頼らず国内で供給できるのが魅力だという。
鍵は越夏管理技術
内藤部会長は「高齢化で全国的に栽培面積は減少気味だが、うちの部会は若い担い手が入ってきている」と胸をなで下ろす。さらに、ネギ作りの魅力は、周年的に需要があることから安定しており、機械化で労力も少なく、真夏の育苗、定植作業から解放されたことを挙げる。
ただ、異常気象によるゲリラ豪雨や長雨による湿害で、欠株が出やすいことが課題。産地として面積を確保し、安定して生産するための越夏管理技術の確立を強調する。
JA遠州中央 インタビュー
栽培専念へ全力支援
冬場の白ネギ産地として市場からの信頼を獲得するJA遠州中央白葱(ねぎ)部会。同JA営農事業部園芸課の鈴木聡係長に栽培や品種選びのポイントを聞いた。
JA遠州中央 営農事業部 園芸課 鈴木聡 係長
――薬剤ローテーション見直しのきっかけは。
当初は、効果のあるといわれる薬剤を何度も使うなど、偏った防除方法だった。それがだんだん効きにくくなったため、薬剤耐性を付けないよう、農薬の作用機構分類(RACコード)をつけて薬剤を紹介した管理情報を生産者に配布。防除暦も改良した。白葱部会の中にある生産者で組織する「生産研究委員会」で、病害の発生状況に合った防除法を提案している。
――市場へのアプローチはどのようにしていますか。
部会の役員は、主要な出荷先である関西市場に年に数回出向き、産地の情報を伝えている。またJAの販売担当者は、ネギの出荷時期には毎日、市場と連絡を取っているので、市場からの要望を定期的に生産者に伝えるようにしている。
――品種選びのポイントは。
年間で生産者に提供しているのは9品種だ。少なめだが育苗センターがあるため、産地に合った品種を選抜している。
ポイントは、育苗が順調にできるか、耐暑性を含め、生育面でしっかり収穫できるか。特に高温多湿に強い品種に着目して選ぶ。生産研究委員会メンバーに選抜をかけてもらい、最低でも2、3年は試験する。
――売れるネギの共通点を教えてください。
緑と白のコントラストがしっかりしていて、鮮やかなものが求められている。
シーズンを通して、安定して収穫してもらえるような指導を心掛けている。自然災害に左右されず、被害を最小限に抑えられる技術を見つけ提供していきたい。
――産地の展望を聞かせてください。
白ネギ経営は安定しているので、やって良かったと思われるような良い経営体を増やしていきたい。高齢化が進む中で、JAとしては機械化一貫体系の利用を併用し、栽培に専念できる環境を整えることで、生産者が栽培面積を増やす一助になれればと考えている。