日本農業新聞 編集局 報道部
歴史的な暑さとなった今夏。多くの野菜が生育不良に見舞われ、品薄高が長期化した。特に著しかったのがトマトで、10月の日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は1㌔760円。月別では過去10年間の最高値(2016年11月・同464円)を大幅に更新し、平年比70%高を付けた。
10月は例年、夏秋作が切り上がり、冬春作がまとまるまで端境期が発生しやすい。終盤の夏秋作の供給充実が鍵とされるが、本年はその課題が如実に表れた。同月の各地区大手7卸の取引量は、平年比4割減。中旬に限ると、平年の半分に落ち込んだ。
東京の青果卸は「夏秋作の主産地である北日本産は、過去になく切り上がりが早かった」と振り返る。9~11月の供給を担う抑制作も、炎天下でのハウス作業が過酷で作付けが減少。高温と降雨が苗の生育にも負担となり、S級以下の小玉が増えた。
冬春作も初期生育の高温が尾を引いて産地リレーが途切れ、異例の高騰を招いた。店頭では、1玉300円前後の高値が固定化。1年を通して広いトマトの売り場が縮小した。卸は「この時期の需給逼迫(ひっぱく)が恒常化すると飲食店もメニューから外さざるをえず、需要が減退しかねない」と懸念する。
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首都圏に展開するスーパーのバイヤーは、「今夏は異例の暑さで店頭でのロスも多かった。どれほど食味に優れていても日持ちしないと意味がない」と指摘。一定の食味を確保した上で、日持ち性を含めた品質のさらなる向上を望む実需者が今後、増えそうだ。
産地も手をこまねいているわけではない。青森県では耐暑性品種「りんか®409」への転換が進行。21年産は系統出荷全体の1割未満だったが、23年は6割まで高まった。他の主産道県も、硬玉系で裂果や軟化しにくく、終盤期でも肥大が進みやすい品種の導入を進める。
トラックの輸送力不足が懸念される物流業界の「24年問題」も、日持ち性に優れた商品のニーズを高める要素となる。夏秋作の主産地では従来、出荷した当日のうちにトラックが首都圏の市場へ着き、翌朝の取引に間に合わせていた。だが、運転手の労働・拘束時間の規制が強まり、販売日を1日遅らせる産地が出てくるとみられる。
産地段階や輸送で低温保管、流通がされているとはいえ、真夏にリードタイムが延びれば、品質への影響も大きい。耐暑性品種への期待に加え、市場内を含めた温度変化を抑える保管、輸送のニーズが、今後は一層、高まりそうだ。