品種選びと最新動向
農研機構 野菜花き研究部門 野菜花き品種育成研究領域 領域長 松永 啓

全国で栽培されているトマトだが、出荷用途や栽培方法、気候、病害虫の発生状況に応じて、多種多様な品種が取り扱われている。品種選びの参考として冬春取りトマト品種の特性(農研機構・野菜花き研究部門監修)を紹介する。
大玉トマト・ミディ(中玉)トマト
注1)品種の選定については、メーカーの聞き取りに基づき、農研機構・野菜花き研究部門が監修 注2)各品種の抵抗性の強弱は、種苗会社のカタログ、ホームページなどを参照 注3)病害抵抗性は、○=抵抗性あり、△=中程度の抵抗性あり(耐病性を含む)※①黄化葉巻病抵抗性遺伝子型は、種苗会社が非公表の場合に、△=中程度の抵抗性あり(耐病性含む)とした ※②葉かび病は、○=抵抗性遺伝子がCf‐9または同等レベルの強い抵抗性、△=○よりやや弱い中程度抵抗性とした ※③品種の特徴は、種苗メーカーによるコメント ※④国内育成品種は育成した種苗会社、海外育成品種は国内の販売店などを記載
ミニトマト
注1)品種の選定については、メーカーの聞き取りに基づき、農研機構・野菜花き研究部門が監修 注2)各品種の抵抗性の強弱は、種苗会社のカタログ、ホームページなどを参照 注3)病害抵抗性は、○=抵抗性あり、△=中程度の抵抗性あり(耐病性を含む)※①黄化葉巻病抵抗性遺伝子型は、種苗会社が非公表の場合に、△=中程度の抵抗性あり(耐病性含む)とした ※②葉かび病は、○=抵抗性遺伝子がCf‐9または同等レベルの強い抵抗性、△=○よりやや弱い中程度抵抗性とした ※③品種の特徴は、種苗メーカーによるコメント ※④国内育成品種は育成した種苗会社、海外育成品種は国内の販売店などを記載
台木用トマト
注1)主な品種について、各社のカタログやホームページなどを参考に病害抵抗性を判定 ※①褐色根腐病について、タキイ種苗およびサカタのタネの品種は抵抗性強度が3〜4の品種を「△」、5〜6の品種を「○」、7〜9の品種を「 」とした ※②青枯病は各社のカタログで抵抗性強度が5〜7の品種を「○」、8〜9の品種を「 」、抵抗性強度の品種間の差が明記されていないメーカーの品種は「□」とした
松永領域長による冬春取りトマトの品種選びのポイント
トマトの黄化葉巻病抵抗性について
生食用トマトには、複数の病虫害抵抗性を有している品種が多い。本紙の品種特性の表を見ても、ほとんどの品種が葉かび病、萎ちょう病レース1およびレース2、斑点病、半身萎ちょう病、ネコブセンチュウ、ToMVに対する抵抗性を有し、その他にも、黄化葉巻病、根腐萎ちょう病に抵抗性を示す品種が多数育成されている。今回はこの中でも、黄化葉巻病抵抗性について見てみたい。
黄化葉巻病はtomato yellow leaf curl virus(TYLCV)というウイルスの感染により発病し、葉に黄化や葉巻症状を発生させ、収量を著しく減少させる病害である。わが国では、本病に対する数多くの抵抗性品種が開発されており、広く活用されている。
ただ、本病に対しては、以前から高温期に抵抗性が機能しないことが報告されており、近年、そのことが論文で明らかにされた。冬春期のトマト栽培、特に長期栽培においては、抵抗性品種を利用していても、栽培後半の春から夏にかけての時期に黄化葉巻病が発生する可能性が高い。
対策として、栽培初期の定植期から、媒介虫となるコナジラミ類を施設内に入れない、増やさないなどの対策が重要になる。冬春栽培の場合、栽培初期の低温期に病徴が見られなくても、栽培盛期に気温が上昇し、黄化葉巻病を発病し、春以降の収量が大幅に減収する可能性がある。
そのため、抵抗性品種を利用するとともに、栽培初期から適切な栽培管理を行うことが重要である。
台木用トマトの病害抵抗性について
台木用トマトも、多くの品種が複数の病虫害抵抗性を保有している。本紙の品種特性表を見ても、根腐萎ちょう病、褐色根腐病、萎ちょう病レース1~3、半身萎ちょう病、ネコブセンチュウ、ToMVなどに抵抗性を示す品種が多いことが分かる。
根腐萎ちょう病、萎ちょう病レース1~3などに対しては、多くの抵抗性品種が比較的安定した抵抗性を示すが、青枯病や褐色根腐病に対しては、品種間で抵抗性の強弱に差があるので注意が必要だ。
青枯病は高温期に被害が拡大する病害のため、以前は、冬春期にはあまり問題とならなかったが、近年は地球温暖化の影響で被害拡大が懸念されている。そのため、長期栽培では、強度抵抗性を示す台木用品種が望まれる。抵抗性の強弱は品種間差が大きいので、カタログなどの情報を参考にして品種を選択したい。
一方、褐色根腐病は低温期に発生しやすい病気である。冬春栽培では本病に対して、強度抵抗性を示す品種を利用したい。褐色根腐病抵抗性の強弱も品種間差が大きいので、カタログなどの情報が有効である。
近年、トマト台木用品種では、青枯病と褐色根腐病の両病害に対して、比較的強い複合病害抵抗性を示す品種が増えているので、品種選択の際には着目すべきである。また、病害抵抗性に加えて、収穫初期から終期まで収量が安定して多い、スタミナのある品種の開発も進んでいる。この点も忘れずに着目したい。