JA共済の 農作業事故未然防止に 向けた取り組み
JA共済の 農作業事故未然防止に向けた取り組み
全産業平均約9倍にのぼる
農作業中の死亡事故
トラクターを運転中にバランスを崩して転倒しそうになった。除草作業中に刈払機の刃に接触しそうになった。脚立の上で高所作業をしていたら、足元がぐらついて転落しそうになった───。
そんなヒヤリハットを経験したことがある人は多いのではないでしょうか。JA共済連の推計では、農作業事故の年間発生件数は約6万4千件。1日あたり180件近くの事故が起きていることになります。
そのなかには、尊い命が失われた事故も多数含まれます。農林水産省の調査によれば、死亡事故の発生率は全産業平均と比べて約9倍にのぼります。つまり農業者のみなさんは、つねに危険と隣り合わせで農作業をおこなっているのです。
なぜこれほど農作業中の事故が多いのでしょうか。そこには農業特有の事情があります。
山や傾斜地が多い日本では、不安定な斜面や高所での作業も多く、転落や転倒を招く要因となっています。加えてビニールハウスや倉庫など狭く暗い施設での作業も衝突や接触などの事故を誘発する要因となっています。
また機械化が進んだ現在は、作業に応じてさまざまな車両や器具を使い分ける必要があり、操作が複雑になりがちです。とくに車高の高い大型機械や刃物のついた器具は、ちょっとした操作の誤りが重大な事故につながります。
このように、農作業にはさまざまな危険がひそんでいます。農作業事故は、いつどこで起こってもおかしくないのです。
当事者の視点から
農作業事故を疑似体験
農作業事故は誰にとっても他人ごとではないからこそ、一人ひとりが事故を未然に防ぐ対策をおこなう必要があります。
そこでJA共済連では、当事者の視点から農作業中の事故を疑似体験できる「農作業事故体験VR」を開発し、農業者のみなさんに安全対策の重要性を伝える学習プログラムを提供しています。
これは専用のヘッドセットを着用することにより、農作業事故の発生場面を実際に体験しているかのような、リアルな360度動画を視聴できる技術です。まるで当事者になったかのような臨場感を味わうことにより、農作業事故のリスクを“自分ごと”として捉えられるのがメリットです。
現在は「乗用型トラクター 転倒編」「コンバイン 巻き込まれ編」「刈払機 刃との接触編」など、発生頻度の高い事故を再現した8種類のVR映像コンテンツを提供し、各地のJAがおこなう研修会やイベントなどで活用されています。体験者からは「事故の怖さを体感できた」「家族全員で安全対策をしたい」といった多くの反響があり、農作業事故未然防止の先進的な取り組みとして高く評価されています。
VRを活用した学習プログラムを展開
地域の農業者が
VRで事故の危険を体感
JA鳥取いなばでは、組合員や職員を対象とした研修会で「農作業事故体験VR」を積極的に活用しています。この日は指導農業士と新規就農者による合同研修会が行なわれ、計10名が農作業中の安全対策について学びました。
同JAでは、参加者同士で意見交換をしながら、自分たちで農作業中の安全対策を考える「対話型研修会」を取り入れています。参加者はまずVRコンテンツを視聴し、事故が起こりやすい状況や原因を理解した上で、どうすれば事故を防げるかを話し合いました。
講師を務めたJA鳥取いなばの草刈誉裕課長は、「農作業事故は不注意によるものが大半。危険な場面を疑似体験できるVRは、『自分も気をつけなければ』と意識づけをするのに有効なツールだと感じています」と話します
研修に参加した新規就農者は、「VRでスピードスプレイヤーの作業中に樹木と車体の間に挟まれる事故を疑似体験したが、自分も同じような環境で農作業をしているので怖いと思った」とリスクを実感した様子。刈払機の作業中に怪我をしかけたことがあるという新規就農者は、「VRで同じ場面を体験して、刃に近づくときはエンジンを停めるなど、操作の基本を守ることが大事だと理解できた」と気づきを得たようでした。
農業者のみなさんの
安心・安全な暮らしを実現するために
JA鳥取いなばの清水雄作組合長は、「JA共済連は共済金の支払いなどを通じて全国で発生した農作業事故の事例や情報をいち早く把握できる強みがある。私たちにはない知見を結集し、VRなどの先端技術を活用した効果的な学習プログラムとして提供してもらえることは、JAとしてありがたく思います」と話します。またスマート農業の導入や気候変動による近年の環境変化を踏まえ、「今後は新たなタイプの事故が発生する可能性があるので、これからもJAとして農作業事故防止に取り組んで行きたい。」と話します。
これからもJA共済は農作業事故未然防止の取り組みを推進し、安心・安全で持続可能な農業に貢献していきます。