産地事例紹介

2023.06.01
群馬県  はた農園  畑裕樹さん
毎年新しいことに挑戦し続けるという畑さん(群馬県伊勢崎市で)

ダクトつり下げ局所加温で節油

 群馬県伊勢崎市の畑裕樹さん(46)は、ハウス46㌃でミニトマトを栽培する。今作から燃油高騰対策としてハウス内のダクトをつり下げ、局所加温技術を実践。トマトの成長点に温風を当てることで燃油使用量を1割削減した。さらにダクト内に二酸化炭素(CO)と微生物殺菌剤を混入するため、光合成が促進され、病気も出にくくなった。他にも多くのメリットがあり、効果の高い技術と手応えを感じている。

成長点付近に温風

 ハウスに入ってまず目に入るのが、円筒形に膨らんだポリエチレン製の子ダクトだ。一般的には通路付近の地面に置かれているダクトが、目の高さにある。「ダクトは24時間ふくらませています」と畑さんは説明する。

 ミニトマトは8月に定植、10月初めから翌年6月下旬まで収穫する長期多段取りだ。寒冷期は重油加温機で暖房するため、燃油高騰には頭を悩ませていた。

 対策に今作から、ダクトを使った局所加温技術を取り入れ効果を上げている。参考にしたのは、農研機構と和歌山県農業試験場などが提唱する「成長点局所加温とCO施用を組み合わせたミニトマト栽培技術」だ。暖房機からの送風(親)ダクトに「子ダクト」をつなぎ、高さ1.5~2㍍につり下げて成長点付近に温風を当てる。さらに、下向きに温風を出すことで、上下の温度むらも緩和している。

 トマトの適温は15~25度だが、部位によって感受性が異なる。成長点や花芽は、日平均気温が12、13度以下になると伸長停止などの障害が起こりやすくなる。一方、それより下部にある茎葉や果実は10度以下でも低温障害が起こりにくい。この温度差を利用し、成長点付近の温度は、慣行と同程度、下部は慣行より下げることで重油の使用量を減らせる。また水平方向の温度むらも防げる。

 畑さんは、前作と今作で11月から4月までの半年間、重油の購入量を比べたところ11%削減できたという。収穫量は前年を上回るペースで推移。裂果の出具合や病気は前年より少なくなった。

ダクトを上につり下げ、成長点に温風を当てて局所加温する
甘酸バランスのいいミニトマト。直売所でも人気だ

COも同時施用

 畑さんは、子ダクトを使いCOも施用。CO発生機の先を暖房機に送り、温風に混入してダクトに送る。ハウスを閉め切るとCO濃度が外気より低くなり光合成が妨げられてしまうのを防いでおり、施用むらもない。さらにダクト内に微生物農薬のバチルス剤を混入させ放出。病気も予防する。常に空気が動き続けていることで、病気の出にくい環境にもなるという。

処理葉で天敵利用

 畑さんは近隣の農家と情報共有しながら、総合的病害虫・雑草管理(IPM)にも取り組んでいる。コナジラミ類に対し、天敵のオンシツツヤコバチ(商品名=エンストリップ)を利用する。オンシツツヤコバチは、コナジラミの幼虫に産卵し、体内でふ化する。コナジラミは黒い「マミー」と呼ばれるさなぎになる。5月末現在、気門封鎖剤以外は使用していない。

 この方法を実践するには、処理した茎葉をすぐに撤去しない方が良いという。葉裏に天敵のオンシツツヤコバチが付着しているため、廃棄すると天敵の個体も捨ててしまうことになるからだ。

 畑さんは病害のある葉以外は、摘葉した茎葉は通路に放置し乾燥させる。1週間ほど置くと重量が7分の1に減り、作業者の労力軽減にもつながった。

 今年から作業場の一角に直売所をオープン。近隣の住民に販売。リピーターも着実に増え、「より安全でおいしいミニトマトを作っていきたい」と意気込む。

コナジラミに天敵のオンシツツヤコバチが寄生したさなぎ