冬春取りトマトの品種特性

2023.06.01

冬春取りトマトの品種選びと最新動向

農研機構 野菜花き研究部門 研究推進部研究推進室長 松永 啓

 全国で栽培されているトマトだが、出荷用途や栽培方法、気候、病害虫の発生状況に応じて、多種多様な品種が取り扱われている。品種選びの参考として冬春取りトマト品種の特性(農研機構・野菜花き研究部門監修)を紹介する。

大玉トマト・ミディ(中玉)トマト

 トマト冬春取り栽培の作型は、促成栽培など栽培期間が長期にわたるものが多い。以前は土耕栽培が主流であったが、養液栽培も増加している。近年、育苗、温度・湿度制御、施肥管理、病害虫対策などの技術が急速に進歩しており、収益の維持・増大を支えている。このような長期栽培での品種選びで注意したいのは、まず、長期間の栽培に耐えるスタミナである。生育の維持は、栽培技術の影響が大きいが、品種間差も見られ、各種苗会社は自信のある品種には「スタミナがある」などの記述をしていることが多い。また、冬春取り栽培での果実肥大速度は、一般的には、冬期は遅く、春期以降は速くなり、この特性は品種により異なる。栽培管理を誤ると、冬期に果実があまり肥大しない、春期以降に裂果が増えるなどにより、収益が減る可能性がある。そのため、品種の果実肥大特性を把握して、温度、湿度、施肥管理などを季節によって変更・調整するなどをして、品種ごとに適した栽培管理に努めたい。

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注1)品種の選定については、メーカーの聞き取りに基づき、農研機構・野菜花き研究部門が監修 注2)各品種の抵抗性の強弱は、種苗会社のカタログ、ホームページなどを参照 注3)病害抵抗性は、○=抵抗性あり、△=中程度の抵抗性あり(耐病性を含む) ※①黄化葉巻病抵抗性遺伝子型は、種苗会社が非公表の場合に、△=中程度の抵抗性あり(耐病性含む)とした ※②葉かび病は、○=抵抗性遺伝子がCf‐9または同等レベルの強い抵抗性、△=○よりやや弱い中程度抵抗性とした ※③品種の特徴は、種苗メーカーによるコメント ※④国内育成品種は育成した種苗会社、海外育成品種は国内の販売店などを記載

ミニトマト

 ミニトマトの生産量は、近年、急速に増加し、人気の品目となっている。そのため、果形や果色に特徴のある品種も増加している。また、最近はしっかり着果して裂果の少ない品種が多く、病害抵抗性の面でも黄化葉巻病・葉かび病抵抗性を持つ品種が増えており、これら病害が懸念される地域での品種選びの際には、この点も重要になる。また、近年、へたなしミニトマトの販売が増加している。へたなしミニトマトは、貯蔵性がやや優れ、弁当などに入れやすいなどの利点があり、生産量が増加する可能性がある。ミニトマトでのへたの離脱性は品種により異なり、一般的に長卵形、洋なし形の品種の方が球形の品種よりへたは取れやすい。なお、へたが取れにくい果実のへたを無理やり取り除くと、離脱部より病原菌が侵入する可能性があるので、注意が必要である。

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注1)品種の選定については、メーカーの聞き取りに基づき、農研機構・野菜花き研究部門が監修 注2)各品種の抵抗性の強弱は、種苗会社のカタログ、ホームページなどを参照 注3)病害抵抗性は、○=抵抗性あり、△=中程度の抵抗性あり(耐病性を含む) ※①黄化葉巻病抵抗性遺伝子型は、種苗会社が非公表の場合に、△=中程度の抵抗性あり(耐病性含む)とした ※②葉かび病は、○=抵抗性遺伝子がCf‐9または同等レベルの強い抵抗性、△=○よりやや弱い中程度抵抗性とした ※③品種の特徴は、種苗メーカーによるコメント ※④国内育成品種は育成した種苗会社、海外育成品種は国内の販売店などを記載

台木用トマト

 冬春期のトマト接ぎ木栽培で求められる台木用品種の特性は、各種病害抵抗性と長期栽培に耐えるスタミナである。病害抵抗性では、青枯病抵抗性が強い方が良く、冬春取り栽培でも土耕栽培では春期以降に青枯病が発生しやすいので注意が必要だ。また、冬春取り栽培では、春期以降、急速に生育が進むことが多いが、このような条件でも木をバテさせることのない台木の能力が重要になる。この点で自信のある品種には「草勢が強く、スタミナがある」などと記述されていることが多い。また、近年、養液栽培でも接ぎ木栽培されることが増えている。この接ぎ木の目的は土壌病害軽減ではなく、穂木品種の草勢強化である。欧米での養液栽培ではこのような接ぎ木栽培が一般化しており、日本での養液栽培でも増える可能性がある。

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注1)主な品種について、各社のカタログやホームページなどを参考に病害抵抗性を判定 ※①褐色根腐病について、タキイ種苗およびサカタのタネの品種は抵抗性強度が3〜4の品種を「△」、5〜6の品種を「○」、7〜9の品種を「◎」とした ※②青枯病は各社のカタログで抵抗性強度が5〜7の品種を「○」、8〜9の品種を「◎」、抵抗性強度の品種間の差が明記されていないメーカーの品種は「□」とした