上手な天敵の使い方

2023.06.01

トマト黄化葉巻病対策で注目
上手な天敵の使い方

 作型を問わずトマト栽培で最も脅威となる病害の一つがトマト黄化葉巻病だ。同病害は、害虫であるタバココナジラミが媒介するトマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)によって引き起こされる。病害を抑えるには、タバココナジラミの抑制が必須になる。しかし、タバココナジラミは多くの化学殺虫剤に対して抵抗性を持ち、従来の方法では防除が困難になりつつある。そこで注目されているのが、天敵「タバコカスミカメ」だ。上手に天敵を使うことで、耕種的防除や殺虫剤の効果を高めることにつながり、相乗効果も大きくなる。

タバコカスミカメの成虫

栽培初期は農薬と併用を

 タバコカスミカメは「動植物食性」と呼ばれる特性を持ち、害虫だけでなくクレオメ、ゴマ、バーベナといった植物を餌として増殖できる。特性を利用し、トマト栽培ハウスにこれらの植物を植栽してタバコカスミカメを維持する「バンカー法」が開発されている。これによりハウス内でタバコカスミカメを維持し続け、タバココナジラミの侵入を迎え撃つことができる。
 各地のトマト産地でバンカー法の導入が進んでおり、餌植物としてはクレオメを利用する例が多いようだ。冬春栽培の場合は、栽培初期と栽培後期のタバココナジラミの抑制が重要になる。特に栽培初期は気温の高い時期であり、野外でのタバココナジラミの発生量が多い上、TYLCVに感染すると損害が大きくなるため確実な抑制が必要だ。タバコカスミカメに頼り過ぎず、確実に効果のある化学殺虫剤や選択性殺虫剤、忌避剤なども組み込んだ体系が必須になる。

餌植物にクレオメを利用したバンカー法(福岡県のトマト産地)
TYLCVを媒介するタバココナジラミの成虫㊨と幼虫㊧

増え過ぎによる食害注意

 栽培後期は春先からタバココナジラミが増えやすくなるが、この頃にはトマトが大きく育ち、TYLCVに感染しても発症まで時間がかかり、大きな損害になりにくい。そのため、タバコカスミカメの利用を中心とした体系が有効だ。ただし、タバコカスミカメは増え過ぎるとトマトを食害してしまうため、利用する場合は天敵利用の知識、経験のある指導員らとの協力が必須になる。
 ここでは詳述しないが、赤色防虫ネットなどによるコナジラミの侵入抑制もタバコカスミカメを有効活用する大前提である。

農研機構 植物防疫研究部門
作物病害虫防除研究領域 生物的病害虫防除グループ
上級研究員 安部順一朗