マーケット視点 日本農業新聞 農政経済部

2022.12.02

終盤期の供給充実を価格〝安定〟へ契約取引

日本農業新聞 農政経済部

 近年、夏秋トマトの生産はおおむね横ばいで推移している。2021年出荷量(農水省調べ)は28万4500トン。小幅ながら増加が続き、4年ぶりに28万トン台に乗せた。

 主産道県の10年間の動向を見ると、北海道は11年比24%増、茨城は同41%増と大きく伸ばした。一方、千葉や長野は同2、3割減。年ごとの作柄差があって一概には言い切れないが、産地間で対照的な推移が見て取れる。

 卸売会社からは、夏秋作の終盤となる10月の供給充実を望む声が強い。東京新宿ベジフルの谷中崇士執行役員は、「越冬作の産地で導入が進む新品種は、病害に強い一方、着色が遅い傾向にある。夏秋作の終盤と後作の出始めが端境となりやすい」と話す。

 今年は夏秋作の終了が早まる中、後作も遅れて品薄高となった。10月の日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は、平年比34%高。7卸販売量は同11%減だった。谷中氏は「輸入品の価格が上昇し、外食など業務筋で国産回帰の機運が高まっている。端境期を補える供給があれば、需要をつかむことができる」と期待する。

 品目、時期を問わず、生産コストの上昇は青果物を販売する上で一番の難題だ。肥料代や輸送費など諸経費が軒並み上昇する中、各産地とも卸売会社や実需者に対し、価格転嫁を要望している。

 ただ、実現のハードルは高い。卸売会社は「青果物は需給バランスで相場が決まり、そこに生産コストを上乗せして価格を設定するのは難しい」と話す。消費者の節約志向も強く、売れる価格帯が固定化。「店頭で1パック198円が基本の商品が200円を超えると、とたんに売れなくなると聞く。卸売価格が上げても店頭価格は据え置かれる場面も多い」(同)。

 価格の転嫁が難しいなら、安定を目指す。この発想で、事前に数量と価格を取り決める契約取引を強化する産地もある。変動が大きい相場に左右されず、再生産価格を保証できる取引を増やし、所得を確保する戦略だ。

 実需側も、肯定的に捉える。スーパーのバイヤーは「レギュラー品など全てを対象とするのは難しいが、他と差別化できる品を安定調達する上で、契約取引はメリットがある」と話す。高糖度や機能性を打ち出したブランドや、へたなしなどの利便性に応えるアイテム。実需ニーズを捉えた付加価値の高い商品は今後、契約取引の比重が高まりそうだ。

産地独自の付加価値商品は、他と差別化したい実需者から安定調達のニーズが期待できる