産地事例紹介(千葉県)

2022.12.02
三須トマト農園

都市農業を模索 完熟と多販路戦略に活路

 東京のベッドタウン、千葉県船橋市。三須トマト農園は、都市農業ならではの経営を模索する。大玉、中玉、ミニのトマトをハウスで多品種栽培。完熟させ、直売店舗やスーパー、移動販売車、SNSなどを駆使して売りさばく。加熱調理に向く品種も取り入れ、シェフらの力も借りて生食以外の新たな世界も切り開く。

ハウスに隣接する直売店舗。メインは地元の常連客だ
夫婦で役割分担し販路を広げる

味と自前ブランドで差別化

 三須トマト農園の代表、三須一生(かずたか)さん(45) は、地元船橋で20代続く農家の長男。レストラン経営を手掛ける会社で店長などを務めた後、30代半ばで父の後を継ぎ就農した。飲食業だったことから食材に興味を持ち、就農を決めてからは先輩農家を見て回った。直売で食べた取れたてトマトの味に感動し、地元の都市住民にこの味を届けたら喜ばれると、自分なりの農業を思い描いた。

 天候に左右されない施設園芸で、周年的に収量を取る養液栽培を選んだ。これを学ぶため、栃木県の施設園芸メーカーで1年間研修。2015年、合計3300平方㍍のハウス2棟と、その隣に直売店舗を建てた。栽培管理と店舗運営、営業などを夫婦と正社員1人、パートタイマー14人で賄う。

 ハウスでは10月初めから翌年7月中旬までの10カ月間、朝取り完熟の新鮮なトマトを切れ目なく収穫し直売店舗に並べる。現在は試行錯誤の末、大玉、中玉、ミニを合わせて15品種作付けている。

 トマトには三須トマト農園独自にネーミングする。例えば、大玉には「トマトのめぐみちゃん」、ミニには「ミニトマモモちゃん」。ミニでレッド、グリーン、イエロー、ブラウンなど色とりどりのミックスには「カラフルトマト」。客には品種ではなく、完熟の味と三須ブランドを覚えてもらうことで差別化を図る。

 直売店舗にのぼり旗が立ち、SNSでオープンを告知すると、それを目にした地元の常連客が足を運んでくる。店舗には、一生さんの仲間の野菜や、妻の美智子さん(39)が参加する農業女子プロジェクトの仲間の農産物も並ぶ。

 一生さんは、「都市部でお客さまに近いことを生かし、全国の仲間たちのショーウインドー的なことも担っています。ただ基本は地産地消」と自らの役割を捉えている。

完熟・多品種栽培で三須ブランドのトマトを売る
養液栽培、複合環境制御で効率的に栽培

移動販売車で機動力向上

 三須トマト農園の販路は幅広い。直売店舗のほか、JA直売所、スーパーの地場コーナー、配達サービス、料理サイトのネットショップ、自前のオンラインショップも持っている。昨年からは軽トラで移動販売も始めた。これにより機動力が上がり、曜日を決め近隣の駐車場での販売や、「マルシェ」などのイベントにも声がかかるようになった。店舗販売や販売車でのイベント出店は、美智子さんがメインで担当する。

曜日や場所を決めての移動販売やイベントへの出店などで軽トラが活躍

中玉の加熱調理定着に意欲

 一生さんがメインで売りたいと考えているのが中玉トマトだ。しかし日本では、子どもを持つ母親はお弁当用にミニを、年配者は大玉を選ぶ。切らないと食べられない中途半端さもあり、なかなか広がらない。しかし中玉は、ミニより手間がかからず、ミニの1・5倍の収量が見込めるうえ単価は高い。

 一生さんが推す中玉品種の「サンマルツァーノ」は、生食でもおいしいが、加熱すると濃厚な味わいになる。欧州では一般的な加熱調理を、生食オンリーの日本に定着させられないか。そんな中今年8月、テレビの地上波番組でイタリア料理やフランス料理のシェフが、三須トマト農園の「サンマルツァーノ」を使った料理を紹介。一生さんは「加熱すれば量も食べてもらえるし、酸味も減ります。メディアの力も借りながら、トマトの新たな食べ方を普及し、お客さまに手に取ってもらえるようにしたい」と次の一手を模索する。