主な夏秋作型向けトマト品種の特性

2022.12.02

夏秋取りトマトの品種選びと最新動向

農研機構野菜花き研究部門 研究推進部研究推進室長 松永  啓

 トマトを安定栽培させる重要な要素として、栽培地の環境や栽培方法に最も適した品種を選ぶことがあげられる。ここでは、夏秋トマトにおける品種選びの参考として夏秋取りトマト品種の特性(農研機構・野菜花き研究部門監修)を紹介する。

大玉トマト・ミディ(中玉)トマト

 近年、温暖化の影響により高温期が長期化する傾向が見られる。この気象変化はトマトの夏秋栽培に大きな影響を与え、高温期での着果性、果実肥大性、耐裂果性、耐尻腐れ果などが重要になる。本特集では、これら高温期に発生しやすい生理障害に強い品種などがリストアップされている。最近の傾向として、耐裂果性に優れる果実の硬い品種や高温着果性に優れる品種が増加している。品種選択時には、これらの特性にも注意したい。トマトは黄化葉巻病抵抗性品種が増える傾向が見られるが、夏秋栽培向けでは、黄化葉巻病抵抗性を持たない新品種もリリースされている。夏秋栽培では育苗期が病虫害防除の面で比較的管理しやすい冬春期にあたるため、黄化葉巻病感染のリスクが小さいが、収穫期は黄化葉巻病を媒介するコナジラミ類の活動が活発になる時期。黄化葉巻病抵抗性を持たない品種を栽培する時は、気を抜かずに病虫害防除を徹底する必要がある。

 なお、ミディ(中玉)トマトは、食味が良く、根強い人気があるが品種数は少ない。しかし、果実の大きさ、着果数、果実色、生育速度などで品種間差異が見られるので、これらの点に留意して品種を選定したい。

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病害抵抗性は、◯=抵抗性あり、△=中程度の抵抗性あり(耐病性含む)。品種選定や各品種の抵抗性の強弱は種苗会社への聞き取りや、種苗会社のカタログ、ホームページなどを参考にし、それぞれ農研機構野菜花き研究部門が監修した。※①高温期の「果実肥大性」「着果性」「耐裂果性」「耐尻腐果」の4項目はメーカーの自己申告に基づき、◦=極めて優れている、◯=とても優れている、△=やや優れている、記載なし=優れていない・不明、とした ※②黄化葉巻病抵抗性遺伝子型は、種苗会社が非公表の場合は△=中程度の抵抗性あり(耐病性含む)、とした ※③葉かび病は、◯=抵抗性遺伝子がCf-9、または同等レベルの強い抵抗性、△=◯よりやや弱い中程度抵抗性とした ※④品種の特徴は、種苗会社によるコメント ※⑤国内育成品種は育成した種苗会社を、海外育成品種は国内の販売店などを記載した

ミニトマト

 近年、ミニトマトは、生産量が急速に増加しており、人気の品目となっている。しかし、大玉トマト品種と比べると品種数が少なく、夏秋栽培用と冬春栽培用に明確に区別されている品種は少ない。一方、収量性に優れる品種、食味・食感に優れる品種、果形・果色に特徴のある品種など、バラエティーに富んでいるので、品種選択時には各品種の主要特性を十分に把握しておきたい。病害抵抗性をみると、新しい品種では黄化葉巻病抵抗性を持つ品種が増え、全体的に、ほとんどの品種が葉かび病抵抗性を保有しているが、根腐萎ちょう病抵抗性や萎ちょう病レース2抵抗性を持つ品種が少ないので、土耕栽培の品種選定時には注意が必要である。

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病害抵抗性は、◯=抵抗性あり、△=中程度の抵抗性あり(耐病性含む)。品種選定や各品種の抵抗性の強弱は種苗会社への聞き取りや、種苗会社のカタログ、ホームページなどを参考にし、それぞれ農研機構野菜花き研究部門が監修した。※①高温期の「果実肥大性」「着果性」「耐裂果性」「耐尻腐果」の4項目はメーカーの自己申告に基づき、◦=極めて優れている、◯=とても優れている、△=やや優れている、記載なし=優れていない・不明、とした ※②黄化葉巻病抵抗性遺伝子型は、種苗会社が非公表の場合は△=中程度の抵抗性あり(耐病性含む)、とした ※③葉かび病は、◯=抵抗性遺伝子がCf-9、または同等レベルの強い抵抗性、△=◯よりやや弱い中程度抵抗性とした ※④品種の特徴は、種苗会社によるコメント ※⑤国内育成品種は育成した種苗会社を、海外育成品種は国内の販売店などを記載した

台木用トマト

 台木用トマトは、複数の病害抵抗性を保有した品種が多く、中には10種類の病虫害に抵抗性を示す品種も発表されている。これらの中で夏秋栽培において最も重要な病害は青枯病であろう。トマトの青枯病抵抗性はナス、トウガラシと比べると抵抗性が少し弱いため、青枯病が発生しやすい生産地では抵抗性が十分に発揮されない場合も見られる。近年、既存の抵抗性品種よりも強い抵抗性を示す台木用品種が複数発表されているので、青枯病による被害が軽減されることを期待したい。また、トマトの接ぎ木栽培では、トマトモザイクウィルス(ToMV)などのトバモウイルスに感染した時に枯死することがあるので、穂木用品種と台木用品種のToMV抵抗性遺伝子型を同じにすることが勧められている。ほとんどの穂木用トマト品種はToMV抵抗性遺伝子としてTm-2aを保有しているが、台木用品種にはTm-2aでなくTm-2を保有している品種もある。Tm-2を持つ台木用品種にTm-2aを持つ穂木用品種を接いでも、多くの場合は問題ないが、枯死するリスクも0(ゼロ)ではないので、注意が必要である。

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注)1.主な品種について種苗会社のカタログ、ホームページなどを参考に病害抵抗性を示し、それぞれ種苗会社が確認、農研機構野菜花き研究部門が監修した 2.青枯病は種苗会社のカタログで抵抗性強度が5―7の品種を〇、8―10の品種を◦とし、抵抗性強度の品種間差が明記されていない品種は□、とした 3.褐色根腐病は、カネコ種苗はカタログ通りの表記。タキイ種苗およびサカタのタネの品種は抵抗性強度が3―4の品種を△とし、5―6の品種を〇、7―9の品種を◦とした