春夏作型向け 品種選びと最新動向

2023.07.15
農研機構 野菜花き研究部門 野菜花き品種育成研究領域 露地野菜花き育種グループ 研究員 藤戸 聡史

用途別の育成進む

 春夏ネギの安定生産には、産地に適した品種選びが重要だ。ここでは、春夏ネギの品種選びの参考に品種の特性を紹介する。

特性の評価については各社から提供いただいた評価値をもとに各社のカタログ、ホームページを参考にし、それぞれ農研機構 野菜花き研究部門が監修した。※=トンネル被覆

 ネギはもともと秋~冬が旬の野菜ですが、現在では品種開発や栽培技術の発展によって周年栽培が可能になり、端境期である春~夏にも流通しています。東京都中央卸売市場2022年ネギ入荷実績によると、春夏ネギは秋冬ネギに比べて出荷量はおよそ4分の3ですが、単価はおよそ1.2倍高くなっています。
 春夏ネギは秋冬ネギよりも収穫適期が短くなるので、それぞれの収穫時期から逆算して作型を検討する必要があります。一方、収穫適期は短いですが、単価が高いことから安定的な収穫を行うことで収益性の向上につなげることが可能です。
 一般に、春ネギは5~6月に播種(はしゅ)し、8~9月に定植する作型、夏ネギは早くても10月以降に播種し、11月以降に定植する作型です。春夏どちらの作型においても、収穫時期である春夏の抽苔(ちゅうだい)や、高温での生育障害による商品価値の低下が問題となります。これらを避けるために、トンネルやマルチなどを用いた抽苔を避ける栽培法の開発や、晩抽性・耐暑性品種の育成が進められてきました。特に近年では春夏ネギの需要が増加していることから、春夏に適した品種が多く育成されており、産地ごとに適した品種を選定する必要があります。
 春夏取りの作型で求められる品種の特性としては、葉鞘(ようしょう)の肥大性や伸長性が挙げられます。病害虫については栽培時の防除を徹底することで対策が可能ですが、品種の耐病性は高いに越したことはありません。さらに、収穫遅れによる襟部の裂け・割れを防ぐために、品種の特性に合わせて追肥や土寄せのタイミングを管理することが重要です。
 春夏取りの作型の収穫期には、台風や異常気象による大雨による被害が予想されるため、葉折れの程度や倒伏性についても考慮する必要があります。最近では収穫後の用途に対応した品種選定が可能になるような、業務加工用や良食味をうたった品種が多く育成されており、今後、よりバリエーションに富んだ品種開発が期待されます。