しくじりの共有で増収を

2024.07.11
JAいわて平泉イチゴ部会

  

 全国的に知られた大産地ではなくても、情報共有を工夫することで、産地を存続させることができる。部会員14人、面積1.4haの小規模産地であるJAいわて平泉イチゴ生産部会は、部会員の失敗談を共有する独自の研修会「しくじり勉強会」を開いている。勉強会で共有した事例を基に収益改善を目指す、その取り組みを紹介する。

県内唯一の冬春のイチゴ生産部会

 JAいわて平泉イチゴ生産部会は県内唯一の冬春のイチゴ部会である。新規就農した30代が1人、40代が2人、50代が4人、60代が4人、70代が3人の総勢14人。面積は1.4haで品種は「さちのか」と「やよいひめ」をメインに生産し、出荷数量は40t、年間売上は約5000万円と小規模な部会である。
 イチゴは全量を県内市場に出荷している。出荷量は少ないため市場は他県産も取り扱う。しかし県内産を求める市場からは優遇されている。

 

しくじり勉強会の様子。若手を中心に部会員の半数は参加する。(11月、岩手県一関市で)

情報共有が産地の将来を左右する

 近年の天候の急激な変化や病害虫防除、エネルギー・資材の高騰などに対応するため部会独自の勉強会を開催している。人気テレビ番組から着想を得て2020年に始めた「しくじり勉強会」は通常の指導会とは別に、年に1、2度、イチゴの農閑期に当たる11月ころに開く。これまで、苗作りの失敗談をきっかけに親株の管理を改善し、廃棄した果実の鳥獣害対策など、さまざまなテーマで情報共有をした。
 勉強会の成果の一つが、安定した苗作りの実現だ。勉強会で失敗の原因の多くを親株の管理までさかのぼって突き止めた。同部会の滝澤幸夫部会長は「天候と生育量を見た上でしっかり水をあげると、ランナーが多く発生する。点滴チューブを活用し、ランナーはもみ殻の上に伸ばす。ランナーは水を含むと根を張ってしまい1番苗、2番苗が大きく育ってしまう。均一に苗をそろえ、より多くの苗を取るためにもみ殻を使用している。初期に発生した弱いランナーは除去して強いランナーを残す。古葉かきや病害虫防除の手間を惜しまないことも大切だ」と説明する。
 部会員共通の悩みで、廃棄したイチゴの鳥獣害対策にも取り組んだ。「出荷できなかった果実を放置した結果、ハクビシンが集まるようになってしまった」という失敗談から、害獣が掘り起こせない深さまでバックホーで穴を掘って埋めたり、小屋に厳重に保管してまとめて廃棄するなど、適切に処理できるようにした。
 「そもそも部会とは、部会員の収益を高めるためにあるもの。部会員がお互いに高め合う場をつくりたい、という思いから企画した。大産地と小産地との違いは、共有する情報量にあり、小規模であっても、共有する情報の量が増えて質が高まれば、個々のレベルは高まり産地力の向上につながる」と滝澤さんは話す。
 14人の部会員が育てたイチゴは県内市場に出荷される。市場関係者に産地の現状を丁寧に説明することで、満足がいく単価を得られている。「売り場でも貴重な県内産として、丁寧に販売してもらっている。収量さえ確保できれば、小さな産地でもイチゴはもうかる」と滝澤さんは自信をのぞかせる。

 

ランナーを確認する滝澤さん(岩手県一関市で)

 

クレームゼロと新しい品種への挑戦

 同部会は、クレームゼロを目指した取り組みも行っている。青果物のため完全なクレームゼロは難しいが、JAの予冷庫や玄米用貯蔵庫で予冷をかけ鮮度を保ちながら出荷を心がけている。
「部会員は毎日収穫しているが、朝から必死に収穫しても1人では5aほど。一方で栽培面積は1戸当たり平均約10aあり、株に対しては2日に1度の収穫になる。どうしても過熟が起こってしまう。部会では、予冷庫がない部会員が収穫したイチゴをJAの予冷庫に入れるようにして、極力過熟にならないよう努めている」と滝澤さんは努力を語る。
 農研機構が育成した品種「恋みのり」の試験栽培を始めた。面積拡大を図っていく計画があり、同品種は果形が乱れないことから調製作業の負担を軽減でき、規模拡大に適している。
 「果数型の『さちのか』は脇芽も多く、管理に手間がかかる。岩手県には県オリジナル品種がないため、『恋みのり』のように誰でも使える品種があれば、試している」(滝澤さん)

 

 

個々が輝くことで産地が残る

 近年は温暖化傾向にあり、県内も夏の暑さはかつてないほどだが、それでも関東以南の産地よりも冷涼である。粘り強く生産を続けることで、将来的に優位性が出てくる可能性もある。
 勉強会もクレームゼロも新しい品種の挑戦も、全ては部会員の収益改善が目e的。「目標は10a6tまたeは、1株当たり2パック(1パック260g)に据え、それが実現すれば、個々が輝き、自然と産地力が高まり、このJAいわて平泉イチゴ生産部会は生き残ることができるはず」と滝澤さんは産地の将来を語る。

  

高設栽培を軸に高品質なイチゴを育てる(岩手県一関市で)