夜冷育苗とクラウン冷却の長期収穫について

2023.07.06

産地拡大に収量増

 静岡県は冬季の比較的温暖な気候と豊富な日射量を生かしたイチゴ栽培が盛んで、農業産出額は109億円(2021年度)と県野菜生産額1位の重要な品目である。しかし、生産人口減少による栽培面積減少が続き、産地規模を維持・拡大、生産者の所得向上のためには、面積当たりの収量増が必須となる。
 方策の一つとして、静岡県農林技術研究所では一季成りイチゴの一般的な出荷時期(12月~翌年5月)より早く10月に収穫開始する「超促成作型」と、より長く7月まで栽培する「延長作型」の長期収穫技術の開発を行っている。これら技術開発では、県オリジナル品種で、早生性や連続出蕾(しゅつらい)性に優れる「きらぴ香」を用いた。

2番果房も年内から収穫

 苗の夜冷短日処理により10月から収穫することは可能であったが、本圃(ぽ)での高温により2番果房(第一次腋花房)の分化が遅れ、中休みが大きく発生することが課題であった。今回、本圃でのクラウン冷却処理も組み合わせることで、高単価の10月から頂果房の収穫を開始するとともに、需要期である12月から2番果房の収穫も開始する作型開発を目指した。
 試験では、夜冷短日処理開始時期の違いによる影響やクラウン冷却処理の効果を調べた。夜冷短日処理条件は、室温15度で16時間暗黒条件とした。また、クラウン冷却処理条件は、定植日から10月上旬まで、クラウン部に接するよう設置したPEチューブにチラー(冷却機)で15度前後に冷やした水を流した。
 夜冷短日処理の開始時期を、7月上旬、7月中旬、7月下旬と3試験区を設けた。いずれも約1カ月の処理で花芽分化を確認後に定植し、それぞれ10月上旬、10月中旬、10月下旬に収穫が始まった。高温などの影響で開始時期が早いほど頂果房のトップ果から3番果の不受精果や著しい奇形果の発生が多かったが、クラウン冷却処理により不受精果などの発生率が低下した。また、2番果房の収穫開始は、夜冷短日処理開始時期によらずクラウン冷却処理により早くなり、普通促成作型(ポット育苗、自然条件下分化後定植)の頂果房収穫開始と同程度の12月上・中旬に始まった。年内収量は普通促成と比べて7、8割増え、4月末までの累積収量も1、2割多かった。

クラウン冷却処理の様子(右の透明チューブがクラウン冷却チューブ)

7月まで収穫「延長作型」

 作型を延長し、7月末まで収穫したところ、6、7月の果実品質について同時期の輸入イチゴや四季成りイチゴと比べると、糖度は同等から高く、酸度は低く、果皮は同程度に硬かった。また、試験的に「超促成作型」と「延長作型」を組み合わせて連続して栽培した場合、10月から翌年7月の総収量は10a換算で10t以上となった。

課題と対策

 超促成作型において、高温時の不受精果の改善や厳寒期に芽数が極端に少なくなることへの対策を検討中である。作期延長では、特に問題となるアザミウマなどの病害虫対策や、経営評価も並行して研究し、マニュアルとしてまとめる予定だ。

静岡県農林技術研究所 野菜生産技術科 上席研究員 望月達史