農林水産省 消費・安全局 農産安全管理課 農薬対策室長 楠川 雅史

農薬は、温暖・湿潤な気候のわが国において、品質の高い農産物を安定的に生産するために、必要不可欠な生産資材である。一方、農作物に被害を及ぼす害虫や病原菌、雑草などの防除や、植物の成長を調節するために用いられるという農薬の特性上、生物に対してさまざまな影響を有する可能性がある。そのため、農薬取締法に基づき、事前にリスクを評価して、人の健康や環境に安全な使用方法が設定できるもののみを登録し、製造・販売・使用できる仕組みがとられている。
農業生産に用いられる農薬の安全を確保するためには、農薬の安全性の評価が最新の科学的知見に基づくものであることが重要である。このために設けられたのが、2018年の農薬取締法改正で導入された農薬の再評価である。また、登録の際に定められた使用方法や使用上の注意事項を守って農薬が使用されることも同じく重要である。さらに、十分に安全性を評価した上で登録されるとはいえ、主に薬剤で病害虫を防除している中、薬剤抵抗性を獲得した病害虫が発生する事態も生じており、生産環境の改善に向けた環境負荷軽減が課題となっている。
最新の知見で再評価
農薬の再評価は、同じ有効成分を含む農薬について一括で、国内での使用量が多いものから優先して実施することとしている。これまで、26年度分までを含む合計166成分を対象として告示している。うち、24年12月末時点で、61成分については再評価のために必要な試験成績や公表文献の調査結果などが提出されており、38成分については農業資材審議会に諮問済みである。各農薬は、食品安全委員会、食品衛生基準審議会、中央環境審議会などでの審議も経て、再評価の審査が進められていくこととなる。
農薬使用者やミツバチへの影響に関しては、法改正を通じて評価の充実が図られたところであり、再評価を経て、農薬によっては、これまでと違う対処法が被害防止方法として定められていくことになる。
使用者暴露にも対応
農薬による事故・被害や残留基準値超過が続いている。農薬ラベルの表示事項に沿った使用が重要だ。また、身の回りで予告なく農薬が使用されたことを不安・不快に感じた方からの相談などが寄せられている状況を踏まえ、24年度の農薬危害防止運動も23年に引き続き、「守ろう 農薬ラベル、確かめよう 周囲の状況」をテーマとして実施した。
特に、農薬マスクや不浸透性防除衣などの適切な防護装備の着用、土壌くん蒸剤を使用した後の被覆資材の設置などの適切な管理、住宅地などで農薬を使用する際の周辺への配慮および飛散防止対策、誤飲を防ぐための鍵のかかる場所での農薬の保管管理などを重点的に指導することとした。
このうち、適切な防護装備の着用に関しては、従来は一つの農薬について、原則として1種類の防護装備が定められていたが、再評価を受けた農薬や20年4月以降に登録申請された農薬については、農薬使用者の暴露量が安全なレベルに収まるよう、作物ごと、使用方法ごとにきめ細かく「被害防止方法」として設定されることになるので、農薬ラベルをよく確認していただく必要がある。

生物防除資材 後押し
農林水産省が21年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」では、環境負荷軽減の観点から、化学農薬の使用量(リスク換算)を50年までに50%低減を目指すこととされている。これをスマート農業技術の活用や栽培暦の見直しだけで達成するのは困難であり、生物防除資材などの化学農薬に代わる資材の開発も期待されている。
生物防除資材の評価・登録の円滑化のため、22年6月に農業資材審議会農薬分科会のもとに専門部会を設置した他、24年4月には、試験ガイドラインを策定・改正し、生物防除資材の評価・登録を着実に進められる体制を整えた。