農研機構 東北農業研究センター 研究推進部 技術適用研究チーム長 古畑昌巳
労働負荷の軽減に期待
経営の大規模化に伴い、省力・低コスト化への取り組みがより一層求められる中、切り札としての水稲直播(ちょくは)栽培に注目が集まっている。移植栽培と比べて約25%労働時間の削減、生産コストも約10%の低減効果が見込まれるものの、収量の不安定さなどの課題も指摘されている。 本企画では、現場での取り組みが進む湛水(たんすい)・乾田それぞれにおける各種直播技術のポイントを紹介する。
直播導入の背景・メリット
直播栽培は、移植栽培における育苗過程を省略して圃場(ほじょう)に直接種子をまいて栽培する技術だ。農林水産省が示した最新の農林水産統計について見ると、移植栽培では育苗および田植え作業が稲作全労働時間のおよそ1/4を占めている。また、現在、日本農業の担い手について、2015年から20年までの5年間で農業就業人口(農業就業人口平均年齢)は176万人(67.1歳)から136万人(67.8歳)へと大幅に減少・高齢化が進み、今後、継続的に日本農業が続いていくかという点でも危惧されている。その中で、直播栽培は育苗・田植え作業の省略以外にも労働負荷の軽減(苗運びがなくなる)、作期分散(限られた人数でより多くの面積をこなすことができる)技術として規模拡大への利用が期待されている。
直播栽培の普及面積および播種(はしゅ)作業の分類
直播栽培は、播種前の湛水条件の有無によって湛水直播栽培と乾田直播栽培に分けられている=表。また、全国の水稲の直播栽培面積の推移を見ると、21年には湛水直播栽培は19,383 ㌶(直播栽培全体の55%)、乾田直播栽培は15,987 ㌶(直播栽培全体の45%)普及しており、直播全体では増加傾向にある=図。地域別では、湛水直播栽培は東北、北陸地方に多く、乾田直播栽培は北海道、東北、北陸、東海・中国四国地方に多い傾向となっている。
湛水直播栽培は播種される種子の位置から表面播種と土中播種に分けることができる=表。作業機別に見ると、ラジコンヘリ・ドローン・多目的田植え機は表面播種、高精度条播機・無コーティング代かき同時播種機は土中播種に分類される。表面播種は芽が出やすい一方で稲が倒れやすく、土中播種は稲が倒れにくい一方で芽が出にくいという特徴があり、現在使われている各種コーティング剤が開発されるまで出芽・苗立ちと耐倒伏性の両立は難しいとされてきた。現在では表面播種では鉄コーティング種子や鉄黒コート種子(※鉄黒コートはコーティング時に発熱しない)、土中播種ではカルパー被覆種子やべんモリ被覆種子(※べんモリ資材は土中の硫化物イオンの発生を抑制する)、根出し種子などが開発され、播種法に合わせて利用されている。
乾田直播栽培の播種位置はすべて土中であり、播種前の耕起の有無によって耕起と不耕起に分けることができる。播種機別にみると、グレーンドリルは耕起、V溝播種機は不耕起に分類される。
直播栽培における苗立ち確保
直播栽培の播種作業について、湛水直播栽培では代かきから播種までの期間や播種時の水深などが播種方法によって異なる。また、乾田直播栽培では圃場が十分に乾いた状態で圃場作業を行うことが望ましいため、収穫後に明渠(めいきょ)や本暗渠を利用した排水促進によって事前に圃場排水性を高めておくことが重要だ。さらに直播栽培を行う上で必要な苗立ち本数について、湛水直播栽培では50本/平方㍍以上、乾田直播栽培では100本/平方㍍以上を目安とする。
直播栽培の雑草対策
直播栽培の播種作業について、湛水直播栽培では代かきから播種までの期間や播種時の水深などが播種方法によって異なる。また、乾田直播栽培では圃場が十分に乾いた状態で圃場作業を行うことが望ましいため、収穫後に明渠(めいきょ)や本暗渠を利用した排水促進によって事前に圃場排水性を高めておくことが重要だ。さらに直播栽培を行う上で必要な苗立ち本数について、湛水直播栽培では50本/平方㍍以上、乾田直播栽培では100本/平方㍍以上を目安とする。
直播栽培は移植栽培に比べて本田期間が長く、出芽時から雑草と競合しやすいために除草剤の種類や散布時期の選定がより重要だ。湛水直播では播種直後~ノビエ3葉期の期間に散布するのが一般的だが、体系防除(初期剤と初中期剤の組み合わせによる防除)でより安定した効果を期待できる。なお、湛水直播栽培における表面播種では、土中播種に比べて根が薬剤に接触しやすいために薬害が生じやすい特徴があるが、現在、表面播種で実用性が確認された水稲除草剤も複数販売されている。
乾田直播では、乾田期の出芽前に非選択性茎葉処理剤または土壌処理剤、乾田期の出芽後に選択性茎葉処理剤、入水後に初中期一発剤の散布が一般的な防除体系となっている。