トピックス② 「予防・予察」重点に発生拡大抑制

2024.02.19
 農林水産省 消費・安全局 植物防疫課

早期発見・迅速防除体制の強化

 近年、温暖化などの気候変動、人やモノの移動の増加を背景として、わが国への病害虫の侵入・まん延リスクが高まっている。一旦侵入・まん延してしまった病害虫を、駆除・根絶することは容易ではなく、多大な時間、経費、人員などを必要とする。このため、侵入を可能な限り早期に把握し、防除を迅速・的確に行うことにより定着・まん延を未然に防止することが重要である。このことから、23年4月に施行された改正植物防疫法では、病害虫が侵入した際の早期発見・迅速な防除のための体制が強化された。

侵入病害虫 見つけたら一報を

 体制強化の一つ目は、侵入調査事業の法制化である。これにより、国の制度設計の下、全国斉一的に侵入病害虫に対する調査を実施することとした。また、国や都道府県による調査だけでは、侵入病害虫を完全に捕捉することはできず、早期発見、早期防除のためには、農用地などでの農業者らによる目撃情報が欠かせない。このため、罰則はないものの、農業者らが病害虫の国内への侵入を認めた場合の通報義務を規定した。農業者におかれては、農作物に見慣れない病害虫被害が発生していた場合には、最寄りの指導機関、都道府県の病害虫防除所又は農林水産省植物防疫所などにお知らせ願いたい。

緊急防除を迅速化

 体制強化の二つ目は、緊急防除の迅速化と緊急措置命令の強化である。緊急防除の対象となり得る病害虫について、防除内容などの基準(緊急防除実施基準)をあらかじめ策定し、その基準の内容で緊急防除を実施する場合には、緊急防除を行う際の事前周知期間を30日間から10日間へと短縮することが可能となった。これによって、より迅速な対応が可能となり、発生範囲の拡大やそれに伴う防除期間の長期化を防ぐことが期待される。また、事前周知を実施するいとまがない場合に実施することができる緊急措置命令の内容に、栽培規制、移動規制及び物品、倉庫の消毒などの措置を追加した。侵入病害虫に対しては、これらの体制強化の下、引き続き早期発見・迅速な防除に努めていく。

気候変動による発生パターン変化

 国内既発生の病害虫も同様に、温暖化などの気候変動により、発生地域の拡大、発生量の増加、発生時期の早期化や終息時期の遅延が生じている事例が報告されている。さらには、化学農薬に過度に依存した防除体系による薬剤抵抗性・耐性の発達への対応の必要性やみどりの食料システム戦略で掲げる環境負荷低減といった社会的な要請も高まっている=図1。

総合防除推進と省力技術普及へ

 これらを受け、病害虫の被害の軽減を図りつつ持続的な生産を確保するため、改正植物防疫法に総合防除=図2=を定義し、化学農薬のみに依存しない「予防・予察」に重点を置いた総合防除を推進する仕組みを構築した。

 一方で農業従事者の減少・高齢化などによる労働力不足が大きな課題となっており、このような状況下でも食料供給基盤を維持できる生産性の高い農業の確立が必要とされているところ、農林水産省では、スマート農業の推進がその対策の一つとして掲げられている。当課では、省力的・効果的な防除技術の普及・推進のため、ドローンなどの無人航空機や常温煙霧機などの散布技術について、産地の農薬に係るニーズを農薬メーカーに伝達することによるマッチングや、地域における農薬登録拡大に係る試験実施への支援などを通じて、それらの技術に適した農薬の登録拡大を推進する取り組みを実施している。

 また、農業現場においては、農業者に代わってドローンを利用して農薬散布作業を行う取り組みなど、スマート農業技術の有効活用による生産性向上などを図る農業支援サービスの取り組みが拡大してきており、農林水産省としても、これらサービスを提供する農業支援サービス事業体を育成することにより、農業従事者の減少・高齢化などの中にあっても生産性の高い農業の確立を図ってまいりたい。