果樹の害虫防除

2024.02.19
農研機構 植物防疫研究部門 果樹茶病害虫防除研究領域 検疫対策技術グループ グループ長 三代浩二

早期発見と拡散防止を[害虫]

 2023年は春以降、全国的に気温が高く害虫の発生に好適な条件が続いたが、果樹では害虫による大きな被害は発生しなかった。ここでは主要害虫ごとに23年の発生状況と防除のポイントについて概説する。

カメムシ類

 チャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ=写真1、クサギカメムシは果樹カメムシ類と称される。23年は当年世代の発生が関東以西で多く、13都府県で注意報が発表された。暖地ではツヤアオカメムシの発生が多かった。カメムシによる大きな被害は発生しなかったが、秋に発生量が多かった地域では越冬密度が高くなると予想される。春以降の各地域の発生予察を参考に適切に防除してほしい。また、暖地では南方系カメムシのミナミアオカメムシやミナミトゲヘリカメムシの果樹への加害も散見された。

 防除の基本は、早期発見と早期防除である。園内を小まめに見回り、飛来初期から地域で一斉に防除する。発生量が多いときは、残効が長い合成ピレスロイド剤や吸汁阻害効果が持続するネオニコチノイド剤が有効であるが、合成ピレスロイド剤はハダニの天敵にも影響しハダニの多発を招くので注意する。

写真1 ミカンを吸汁するツヤアオカメムシ

シンクイムシ類

 モモシンクイガとナシヒメシンクイ=写真2=は幼虫がリンゴ、梨、桃などの果実内を食害する=写真3。モモシンクイガは5~9月くらいと長期間にわたり羽化し果実に産卵する。ナシヒメシンクイは平年は4~6回発生するが23年は高温により発生回数が増加した地域もあった。23年は東海・北陸で発生が多かったが大きな被害はなかった。スモモやリンゴではスモモヒメシンクイの被害も増加している。

 シンクイムシ類は成虫発生期間は果実への産卵を防ぐため定期的な防除が必要である。残効の長い合成ピレスロイド剤やネオニコチノイド剤、ジアミド剤を使用する。複合交信かく乱剤は広域で一斉に施用すると効果が高くなる。

写真2 ナシヒメシンクイの成虫
写真3 ナシヒメシンクイの被害(ナシ)

ハダニ類

 果樹を加害する主なハダニ類として、ナミハダニ、ミカンハダニ、リンゴハダニ、カンザワハダニなどが挙げられる。23年は全国的にハダニ類の発生が多くなったが大きな被害はなかった。防除は冬季のマシン油乳剤散布が春の初期密度低減に有効である。世代時間が短く薬剤抵抗性を発達させやすいので、作用機作が同一の殺ダニ剤の連続使用を避け、抵抗性の発達を抑える。抵抗性発達の程度は地域ごと異なるため、程度に応じた適切な薬剤を選択する。抵抗性の発達したハダニの対策として、土着の天敵カブリダニとパック式のカブリダニ製剤を組み合わせて利用する〈W天〉(だぶてん)防除体系の研究が進み、生産現場に導入が進められている。

国内で分布が拡大する害虫

 ビワを加害するビワキジラミが23年までに9県で発生が確認された。桃やスモモなどを加害するクビアカツヤカミキリは現在までに13都府県で発生が確認された。23年は発生県などは増加していないが、県などの内部では被害が拡大傾向にある。梅や桃を加害するモモヒメヨコバイ=写真4=は23年に新たに3県で発生が確認され、これまでに23都府県で特殊報が発表された。本種はまだ使用できる殺虫剤が少なく、寄生葉の除去・埋設と合わせて対処しているが、順次増える見込みである。これら害虫に対しては、引き続き早期発見と拡散防止に注意してほしい。

写真4 モモヒメヨコバイ