農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域 生物的病害虫防除グループ グループ長補佐 櫻井民人
高温条件で発生増えやすく[害虫]
2023年は世界的規模で記録的に平均気温が高く、国内においても春から秋にかけて気温の高い日が多かった。ここ数年、このような気象条件が続いており、害虫が極めて増えやすい状況となっている。病害虫発生予察情報などにもあるように、生産現場では、チョウ目害虫や微小害虫(アザミウマ類、コナジラミ類、ハダニ類、アブラムシ類、ハモグリバエ類など)の発生が多い。本稿では、これらのチョウ目害虫と微小害虫について、その特徴や防除対策のポイントなどを解説する。
チョウ目害虫
昨年は例年以上に、ハスモンヨトウやシロイチモジヨトウ、オオタバコガの発生が多い年であった。これらのガの仲間は極めて広い食性を持ち、さまざまな野菜や花き類に被害を及ぼす。アブラナ科野菜全般を加害するコナガも警戒を要する重要害虫である。
21年10月に熊本県で初確認されたトマトキバガは、現在、北海道などの北日本を含む37道府県で発生が確認されている(23年12月6日現在)。ほとんどがフェロモントラップへの誘殺によるものであるが、多発すると大きな被害につながるため、今後も警戒が必要である。 昨年多くの地域で大発生したハスモンヨトウは、高温かつ乾燥条件で多発するため、梅雨明け後に晴れの続く場合は特に注意を要する。齢が進むと殺虫剤の効きが悪くなるため、薬剤防除は分散する前の若齢幼虫に実施する。施設栽培では、開口部に防虫ネットを張って侵入を防ぐことや、黄色蛍光灯を夜間に点灯して活動を抑制することが有効である。薬剤防除を実施する場合には、害虫の薬剤抵抗性を発達させないようにIRACコードの異なる剤を複数選び、ローテーションを組んで適切に使用する。BT剤やIGR剤は遅効的ではあるが、若齢幼虫に対する防除効果が高い。
微小害虫
昨年は例年通り、アザミウマ類やコナジラミ類、ハダニ類、ネギハモグリバエなどが果菜類やネギ、菊などで多く発生した。これらの微小害虫は薬剤抵抗性が発達しやすく、ミナミキイロアザミウマやタバココナジラミなど植物ウイルスを媒介する種もあるため、生産現場では大きな問題となっている。
施設栽培における微小害虫の防除のポイントは、害虫を「入れない」「増やさない」「出さない」ことである。防虫ネットや紫外線カットフィルム、光反射シートの設置、育苗施設をクリーンに保つことは、害虫を「入れない」ために有効である。施設内では、同一系統の殺虫剤の連用を避けて使用し、害虫を「増やさない」ようにする。スワルスキーカブリダニやタバコカスミカメなどの天敵をうまく防除体系に組み込むことも重要である。薬剤抵抗性の問題が生じにくい害虫忌避剤(ベミデタッチ、ジャスモメート液剤)が最近登録されており、新規防除剤として期待されている。また、栽培終了後に蒸し込みを行い、施設内で発生した害虫類を外部へ「出さない」ことも心がけたい。