野菜の病害防除

2024.02.19
農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域 生物的病害虫防除グループ グループ長 窪田昌春

予防含めた迅速な対応を[病害]

 2023年の各地の平均気温は、観測史上最高を記録し、北日本では夏季の降水量も多く、高温多湿で病害が発生しやすい状況であった。東日本以西のような夏季の高温乾燥した条件では、病害の発生は少なくなるものの作物の栽培管理が難しくなる。長時間の多湿条件や、大雨により圃場が冠水・湛水した場合には、各作物の軟腐病、腐敗病、斑点細菌病などの細菌による茎葉の腐敗が多くなり、特に葉菜類では、今後より一層の注意が必要となろう。細菌病害に対しては散布できる農薬の種類が少なく、使用回数制限がない銅剤と少数の抗生物質剤に限られており、発生しやすい状況では予防も含めた迅速な対応が求められる。

露地での対策

 露地栽培では上記の細菌病原菌による腐敗のほか、白絹病や疫病、リゾクトニアやピシウム属菌による苗立枯などの高温で発生しやすい糸状菌による土壌病害について耳にすることが多くなった。各種作物の炭腐病や黒点根腐病、フザリウム属菌による立枯病、細菌によるナス科作物の青枯病などの発生地域が北上していると思われる。糸状菌による土壌病害に対しては土壌消毒の効果が高く、前作で発生が見られた圃場ではクロルピクリンなどのくん蒸剤の利用、あるいは化学農薬を使わない土壌還元消毒などを行う。青枯病は防除が困難であり、土壌消毒と併せて抵抗性台木への接ぎ木、トマトならば高接ぎなどの複数の防除技術を組み合わせる。近年は、土壌病害に対して栽培期間中に土壌潅注(かんちゅう)できる農薬が増えてきており、発生程度が弱い場合には有効である。露地野菜の地上部病害では、冬季の温度が高い場合には各種作物のべと病の発生期間が長くなり、越冬作物では春季以降の大きな被害につながる。ネギ・タマネギではべと病の発生予測技術が進展してきており、該当情報を利用して効率的な農薬散布などの防除作業を行いたい。

ハクサイ軟腐病
コマツナ苗立枯病

施設での対策

 施設栽培では、高温期の長期化により微小害虫によって媒介されるウイルス病害の被害が大きくなってきている。各種作物の黄化えそ病、トマトの黄化病と黄化葉巻病、ウリ科作物の退緑黄化病などの被害が拡大している。これらのウイルス病を防ぐには、媒介虫であるアザミウマ類、コナジラミ類の防除を徹底する。また、糸状菌病原菌により高温で発生しやすい各種作物のすすかび病・斑点病、キュウリ褐斑病、ナス・ピーマン黒枯病、トマト褐色輪紋病などの茎葉病害が多くなっている。これらの病原菌では薬剤耐性菌が発生しやすいため、FRACコードで示される作用機作が異なる農薬をローテーション散布しなければならない。薬剤耐性菌が発生しにくい多作用点接触阻害剤を基幹としたい。また、多くの作物で発生するうどんこ病、灰色かび病の病原菌でも薬剤耐性が発達しやすいが、うどんこ病に対する気門封鎖剤、両病害に対して、炭酸水素無機塩類に加え、微生物農薬も使用できる種類が増えており、予防的に活用したい。これらの剤では薬剤耐性が発達しにくく、使用回数にも制限がない。

キュウリ黄化えそ病
ナス黒枯病