水稲の害虫防除

2024.02.19
農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域 病害虫防除支援技術グループ グループ長補佐 平江雅宏

広い地域での多発生警戒[害虫]

 昨年の水稲害虫の発生状況については、病害虫発生予察情報によると斑点米カメムシ類は7~9月に広い地域で発生が「やや多い」もしくは「多い」と予想され、15道県から延べ16件の注意報が発表された。このほか、ヒメトビウンカによって媒介されるイネ縞葉枯病に関し茨城県から2件の注意報が発表された。

斑点米カメムシ類

 斑点米カメムシ類は、水田畦畔(けいはん)や休耕田にあるイネ科雑草などで増殖し、稲の出穂とともに水田に侵入し、成虫や幼虫がもみから玄米の汁を吸うことによって米粒の一部または全体が変色・変形する斑点米を発生させる。近年、全国的に多発生傾向が続いており、発生地域では適切な防除対策を行う必要がある。東北や北陸地域では、斑点米カメムシ類の中でも大型種であるクモヘリカメムシの分布拡大が懸念されている。また、近年注目することとしてイネカメムシ発生量の増加や発生地域の拡大が関東以西で目立っており、昨年は福島県でも42年ぶりに本種の発生が確認された。本種は斑点米を発生させるだけでなく、稲の登熟初期に穂が加害されると不稔(ふねん)粒が発生し減収する要因となるため注意を要する。

イネカメムシ
クモヘリカメムシ

適切な雑草管理を

 防除対策としては水田周辺においてカメムシの増殖源となる雑草を適切に管理することが重要である。農道や畦畔の雑草を稲の出穂1、2週間前までに刈り取り、稲の出穂前後の期間中にイネ科雑草の穂が出ないように管理することにより、カメムシ類の発生を抑制し水田侵入量を減らす。また、水田周辺だけでなく、水田内に雑草を生やさないように管理することも大切である。

種や発生量見極め薬剤の適期散布を

 本田での薬剤防除は稲出穂後の殺虫剤散布が基本となる。一般に穂ぞろい期~出穂10日後に散布し、発生量が多い場合はその7~10日後に追加散布する。ただし、カメムシの種類や発生量、薬剤の種類により適切な散布時期・回数に若干の違いがあるので、病害虫防除所などの情報、指導を参考にして防除を行う。

トビイロウンカ/セジロウンカ

 トビイロウンカとセジロウンカは日本では越冬が不可能であり、毎年梅雨時期に中国南部などから下層ジェット気流に乗って国内の水田に飛来する。九州地域を中心として西日本で飛来が多い傾向にあるが、飛来時期・量・回数は年によって変動するため、毎年の飛来状況を把握し、その後の発生について注意する必要がある。

感受性の低下注意

 防除対策としては育苗箱施薬剤の利用と本田殺虫剤散布が挙げられるが、一部殺虫剤に対し薬剤感受性が低下している事例が報告されており薬剤の選定には注意する。両種による被害が警戒される地域では、育苗箱施薬剤による対策に加え、必要に応じ適期に本田防除を実施する。トビイロウンカ多飛来時は中期・後期の基幹防除、臨機防除を徹底することが大切である。また、本田防除の場合は、薬剤がウンカ類の生息場所である稲の株元まで十分かかるよう心がける。