農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域 病害虫防除支援技術グループ 主席研究員 芦澤武人
高温・高湿度に注意しよう[病害]
2023年は、夏季の平均気温偏差が+1.76度と過去最高を上回り、統計開始以来気温が飛び抜けて高かった。特にフェーン現象で北陸・北日本での気温が高く、新潟県では平均気温が30度を超える日が多くなり水不足となった。全国的に梅雨入りは平年より早い地域が多く、梅雨明けは遅い地域が多かった。葉いもちは平年より発生が多く、穂いもちは平年並み、紋枯病はやや少なく、ごま葉枯病が多かった。注意報はいもち病が11道府県(北海道、秋田、山形、愛知、三重、滋賀、京都、広島、山口、高知、大分)、紋枯病が1県(長崎)で発表された。
いもち病
地球温暖化により3月の気温が顕著に高く、4月以降も高くなることが多くなり、5月ごろからいもち病の感染に好適な日が出現するようになってきた。葉いもちの感染好適条件は気温が15~25度の範囲、葉面湿潤時間が10時間以上、前5日間の平均気温が20~25度となる条件がそろう必要がある。このため、気温が低く今まで問題にならなかった早期水稲でも今後は発生に注意を要する。
薬剤の選択に注意
同一の種子消毒剤を毎年使用すると、薬剤耐性菌が出現して効果的な薬剤が使用できなくなる。近年種子消毒剤に対して感受性が低下したばか苗病菌が出現している事例があるので、これらの情報を収集し薬剤の選択に注意する。また、薬剤耐性の発達しにくい微生物製剤の利用について検討すると良い。
紋枯病
近年の夏季の高温により、標高の高い地域においても発生が目立つようになってきている。高温・高湿度になると罹病(りびょう)株や菌核が増えて伝染源量が増加し常発圃場(ほじょう)となる。このため、代かき時に風で畦畔(けいはん)側に吹き寄せられた残渣(ざんさ)を圃場から取り除いたり、発生が多い圃場ではプラウ耕などで土中に菌核を埋没させたりするなどの対策をとる。本病の発生を助長する窒素肥料の多施用や密植は避ける。出穂期の発病株率がおおよそ20%を超えてその後、高温・高湿度な気象が続くと予想される場合は、本田散布が可能な粒剤や液剤を利用して適宜防除に努める。
白葉枯病
伝染源は水田雑草のサヤヌカグサなどに寄生している白葉枯病菌で、細菌性の病害である。夏季の異常高温により、罹病性品種の作付地域において全国的に再興してきている。急性症状を示す場合は葉に白色で水浸状の大型病斑を形成し、のちに脱水して病斑部は褐色に枯れ上がる。台風などの降雨や強風により葉が擦れて傷が付きそこから感染が起こる。 このため、夏季に降雨が多い時や台風の接近が予想される時は、本田で予防粒剤を散布して被害を抑制する。伝染源となる雑草が発生しないよう管理することや窒素肥料の多用を避けることも被害抑制につながる。