JA全農 耕種資材部 農薬課 農薬技術対策室長 青山 良一
気候変動対策は世界共通の最重要課題であり待ったなしの状況にある。このことは、あらゆる人間活動が関係しており農業も例外ではない。一方、日本では農業就業人口の減少が続いており、日本農業にとって「省力化・効率化」「労働力確保」が喫緊の課題となっている。そのような国内外の動きが加速する中、国は食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を2021年5月に策定した。
環境調和型農業の推進
JAグループは、第29回JA全国大会(21年10月)において環境調和型農業の推進を決議した。これを受けて、JA全農では環境調和型農業に資する技術・資材を体系化した「グリーンメニュー」を策定し、全国に設定したモデルJAで実践と検証を進めながら現場への普及を図っている。
「グリーンメニュー」を活用した栽培・営農体系を確立するためには、行政機関と連携しながら地域・作物ごとに現地実証を行い、JA栽培暦などに反映することが重要となる。化学農薬使用量低減のメニューにおいては、「総合的病害虫・雑草管理(IPM)」がキーとなるが、防除技術の選択肢が多く、地域・作物ごとに最適な組み合わせが異なることから一律的な普及が難しい。JA全農では、天敵保護装置[バンカーシート]を活用した「イチゴハダニゼロプロジェクト」や「ハウスみかん防除研究会」「ハウスぶどう防除研究会」など技術情報の横連携をきっかけに地域ごとのIPM防除プログラム構築につなげたい。
スマート農業の普及
スマート農業技術は日本農業が抱える諸課題を解決する手段として期待が大きい。JA全農では、営農管理システム「Z-GIS」や栽培管理支援システム「ザルビオフィールドマネージャー」などの営農支援ツールを提供し活用を推進している。「ザルビオフィールドマネージャー」は、さまざまなデータをAI(人工知能)が解析し、作物の生育ステージ予測(水稲、大豆、麦)、病害アラート(水稲、麦)、大豆雑草管理プログラムを圃場(ほじょう)ごとにユーザーに知らせる。ユーザーは圃場ごとの作業管理が可能となり、大規模経営をより効率化できる。
ドローンによる農薬散布は、省力化技術として農業者からのニーズが高い。しかし、露地野菜や果樹用の農薬を中心に使用可能な農薬数が少なく、普及の足かせとなっている。JA全農では関係農薬メーカー協力のもと、20~22年の3年間に千葉県や広島県にある全農県本部の実証圃場において、キャベツやネギなどの露地野菜で薬効・薬害試験(作物・対象病害虫雑草・薬・剤薬量の組み合せ:66試験)を実施し、農薬登録拡大や普及に資するデータを拡充した。
ニーズもとに生産振興
JA全農では、農業生産基盤の持続性が懸念される中、解決策のひとつとして実需者ニーズに基づいた加工・業務用野菜や多収大豆、多収米、子実トウモロコシなどさまざまな作物や作型、栽培様式で生産振興に取り組んでいる。
子実トウモロコシは、飼料価格高騰などの影響から国産品に注目が集まっており、水田輪作体系に組み入れることで、以下のようなメリットが見込まれている。
①子実トウモロコシの面積あたり労働時間が他品目より短く、なおかつ、時間当たり生産性が高いことから、経営面積の維持・拡大に寄与する
②土壌物理性改善による輪作や裏作の作物栽培に好影響を与える
③耕畜連携により国産飼料原料の生産拡大や堆肥の有効活用を促進する
JA全農と宮城県のJA古川が進めている子実トウモロコシの大規模実証は、23年度で2年目が終了し、いくつかの課題を解決できた。病害虫防除においては、最も大きな課題であったアワノメイガによる子実の食害抑制に有効な殺虫剤が、23年5月以降に数薬剤で適用拡大となり、飼料の品質を確保する上で非常に大きな前進となった。