適時適切な防除への貢献めざす

2024.02.19
一般社団法人 日本植物防疫協会 理事長 早川 泰弘

 2023年の病害虫の発生について振り返ってみると、全体としては警報の発令はなく大きな問題はなかったが、23年3月に発動された静岡県内でのアリモドキゾウムシの緊急防除はその後の防除状況と発生状況を踏まえ、25年3月まで延長される模様である。サツマイモ基腐病は、18年の沖縄県での初確認以降31都道府県で発生が確認されているが、登録薬剤・体系防除が進み、発生は減少傾向にある。トマトキバガ(写真①)は、21年10月の熊本県での初確認以降31道府県で確認されているが、実際に作物(トマト、ミニトマト)への寄生が確認されたのは4道県のみであり、今のところ大きな被害には至っていない。 防除薬剤については、当協会が農薬メーカーの協力を得て特別連絡試験を実施し、現在14剤が農薬登録されている。さらに現在17剤について登録拡大に向けて取り組んでおり、適時適切な防除に貢献していきたい。

トマトキバガの幼虫と被害

IPM資材の試験件数 23年度は大きく増加

 23年は新型コロナウイルス対策が緩和されたこともあり、シンポジウムや各種受託試験も本来の形式で順調に実施できた。9月のシンポジウムは「中山間地域における病害虫防除の課題」というテーマで9年ぶりに地方(長野市)で開催し、農機メーカーによる新防除技術(ドローン、常温煙霧など)の実証・実演会も行った。24年1月のシンポジウムは、コロナ禍の収束により人・モノの国際的な動きが再び活発化してきたこと、韓国に続いて23年に中国でも「火傷病」が発生し日本への侵入リスクが高まっていることも踏まえ、「新規病害虫の侵入・まん延防止を考える」というテーマで行った。今年も植物防疫関係者の期待に応えられるようなテーマを選定し実施していく。

 受託試験の特記事項を2点紹介したい。一つ目は、使用時安全の規制強化に伴い新たに導入された圃場(ほじょう)における農薬使用者暴露試験を23年度から開始したこと。難易度の高い試験であったが、農薬メーカーの負託に応えられたのではないかと考えている。二つ目は、総合的病害虫・雑草管理(IPM)の一層の推進が求められる中で、これまでの微生物農薬や天敵農薬を新たに「IPM資材」というカテゴリーに統合し、試験の実施と成績検討を行った。23年度のIPM資材の受託件数は、昨今の情勢を反映し前年までと比較すると大きく増加している。 今後は、生物農薬に限らずIPMに組み込むことのできる新しい防除資材(物理的防除資材など)を含む技術を評価する仕組みを構築していきたい。

現場の防除に役立てて

 これまで何回か紹介してきた「農薬の新施用技術検討協議会」については、①無人防除②慣行の農薬散布量の見直し③ドローン散布(写真②)――の3分野について検討結果を現場の指導に役立てられるような形で順次情報提供していく。また、植物防疫の指導者の養成を目的として開催している「植物防疫研修」については、1974年の開講以来約半世紀にわたり実施してきたが、23年に節目の100回目を迎えた。これまで約6400人の農薬販売業者や農薬メーカーなどの関係者が受講し、その一部は都道府県の農薬管理指導士として現場で安全対策の一翼を担っている。引き続き内容の充実に努めていく。

 以前から懸念されていたが、再評価や使用時安全などの規制強化が進むにつれ、登録農薬の取り下げや登録内容の縮小が現実のものになりつつある。当協会としては、農薬メーカー、都道府県、関係団体と協力し、現場での防除にできるだけ支障が生じないよう代替剤の探索・適用拡大などの適切な対応をとっていく。

かんきつ園でのドローンによる農薬散布