IPMの普及拡大めざす

2023.02.20
JA全農 耕種資材部 農薬課 農薬技術対策室長 青山 良一

 近年、「脱炭素」「環境負荷軽減」「持続可能な社会の実現」が人類共通の最重要課題であり、農業も例外ではない。一方、日本では農業就業人口の減少が続き、国内農業にはさらなる「省力化」「効率化」「労働生産性向上」が求められる。

 このような状況下、2021年5月に国は、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるための政策方針として、「みどりの食料システム戦略」を策定した。コロナ禍やウクライナ問題を契機に、食料自給に関する国民の意識も変わりつつあり、これまで以上に国内農業への関心は高まっている。

持続可能な農業生産実現めざす

 JAグループは、21年10月の第29回JA全国大会において「食料安全保障の強化とあわせて、SDGsやみどりの食料システム戦略、脱炭素などの潮流の中で、農業者の所得の確保と環境負荷の軽減を両立させた持続可能な農業生産の実現」を目指すことと、実践方策の一つとして環境調和型農業の推進を決議した。

 環境調和型農業を実践する上で防除の観点から最も重要な考え方は、総合的病害虫・雑草管理(IPM)である。

 JA全農では、天敵の防除効果を安定させるための天敵保護装置「バンカーシート」を活用した「イチゴハダニゼロプロジェクト」や「w天敵(土着天敵と天敵製剤)を用いた果樹の持続的ハダニ防除体系」など新しい防除技術の横展開を図り、さらなるIPMの普及拡大に取り組む。

バンカーシート®(ミヤコバンカー®)設置の様子

圃場単位で管理するスマート農業普及

 スマート農業技術は、さらなる「効率化」「労働生産性向上」など農業が抱える諸課題を解決する手段として期待が大きい。JA全農では、営農管理システム「Z-GIS」や栽培管理支援システム「ザルビオフィールドマネージャー」などの営農支援ツールを提供し活用を推進している。「ザルビオフィールドマネージャー」は、多くのバックグラウンドデータを人工知能(AI)解析し、作物の生育予測、水稲・麦の病害リスク、大豆の雑草管理プログラムを使用者に知らせる。圃場(ほじょう)ごとに示すことができるため、使用者は大規模経営をより効率化できる。防除の最適化により化学農薬の使用量削減にもつながる。

 ドローンによる農薬散布は、省力化技術として農業者からのニーズが高い。しかし、露地野菜や果樹用の農薬を中心に使用可能な農薬数が少なく、普及の足かせとなっている。JA全農では、登録拡大を進めるため、関係各所と連携し情報共有を図ると共に、20~22年の3年間に千葉県や広島県にある全農県本部の実証圃場においてキャベツやネギなどの露地野菜で農薬登録拡大に向けた薬効・薬害試験を実施した。

ウェブ版の防除指導員講習会

 JA全農では、農業生産現場で営農指導ができるJA職員の人材育成に取り組む。防除指導に必要な農薬などの専門知識を習得するための講習会をJA全農の営農・技術センター(神奈川県平塚市)を中心に、年数回開催している(月~金までの5日間)。コロナ禍により従来の集合型講習会では受講が難しい状況を踏まえ、昨年度から新たな試みとしてウェブ版の防除指導員講習会を開始した。講義は全て事前に収録した動画の視聴とし、受講生は最終日までに全ての動画を視聴した上で、全員出席のもと、一斉に防除指導員認定試験(ウェブ試験)を受験する。ウェブ形式と集合形式の講習会にはメリット・デメリットがあることから、人材育成につながる講習会のあり方を検討し、充実を図りたい。