現場目線の植物防疫へ対応

2023.02.20
一般社団法人日本植物防疫協会 理事長 早川 泰弘

 2022年の病害虫の発生を振り返ると、サツマイモの重要害虫であるアリモドキゾウムシが10月に静岡県で確認され、12月初旬までのトラップ調査により、22地点で467頭の誘殺が確認された。農林水産省は、これを受け、同県内で緊急防除を実施する予定である。被害の未然防止につながることを祈念したい。21年に大きな被害となったサツマイモ基腐病は、22年は30都道府県に発生が広がったものの、各種対策が進みつつあり、主産県での発生面積は減少している。また、21年10月に、熊本県において国内で初めて発生が確認されたトマトキバガは、西日本を中心に12県(22年12月時点)で発生が確認された。協会は、同害虫について関係機関の協力を得て特別連絡試験を組み、15農薬(13有効成分)について薬効薬害試験を実施、早期の農薬登録に結びつけていきたい。

病害虫防除のあり方・方向性議論

 22年の協会事業を2点紹介したい。一つ目はシンポジウム。コロナ禍で開催できなかったシンポジウムに替えて21年4月開催の座談会において、人工知能(AI)、ドローンなどのスマート農業技術やDX化が進展する中で、新しい時代における病害虫防除のあり方・方向性などを議論した。それを基に、その後のシンポジウムで「病害虫診断と発生予察」「農薬の施用法」「防除体系」の三分野の議論を深め、関係者と情報共有を行った。23年1月には「農業生産現場が直面する病害虫防除の課題を考える」と題して、スマート農業を推進する一方で生産現場が直面する課題について、生産振興の観点を含めパネルディスカッション方式で様々な立場の専門家による議論を行った。

農薬施用の省力化・効率化への取り組み

 二つ目は「農薬の新施用技術検討協議会」。協会の重点課題である「農薬施用(散布)の省力化・効率化」について、より広範かつ精力的に検討するために、都道府県、農薬メーカー、防除機メーカー、ドローンメーカーなどの参画を得て設立した。

 現在三つのテーマを検討している。

 一つ目のテーマである「無人散布」は、改めてその有効性が確認され、常温煙霧の検討を深め農薬登録の促進のための各種基礎的なデータの蓄積を行った。現在10作物を対象に64農薬(17有効成分)について登録があるが、さらに農薬登録が進んでいくと思われる。

 二つ目のテーマ「省力的な処理法」については、慣行の農薬散布量の見直しに向け、現在果樹(リンゴ、梨、桃)における散布方法(散布機)、散布量の現状把握を行っている。できるだけ早く集約し、散布量の見直しに関する提案を行っていきたい。

 三つ目のテーマ「ドローン散布」では、作物種・栽培形態の適応性、標準的な薬効薬害試験方法を検討している。また、薬効薬害試験などに関して都道府県の試験機関と農薬メーカーをマッチングする仕組みも構築した。さらに、より難易度の高い傾斜地におけるかんきつを対象に実施した試験結果を共有し、現状と課題を検討した。

 今後のドローン散布の農薬登録の促進に向けて引き続き検討を進めていく。

 23年も、都道府県、農薬メーカーなど関係方面と緊密に連携しつつ、現場目線に立って植物防疫の諸課題に積極的に対応していきたい。