環境配慮し適正な使用を

2023.02.20
農林水産省 消費・安全局農産安全管理課 農薬対策室長 楠川 雅史

 農薬は、温暖・湿潤な気候の我が国において、品質の高い農産物を安定的に生産するために、必要不可欠な生産資材である。一方、農作物に被害を及ぼす害虫や病原菌、雑草などの防除や、植物の成長を調節するために用いる農薬の特性上、生物に対して様々な影響を有する可能性がある。そのため、農薬取締法に基づき、事前にリスクを評価して、人の健康や環境に安全な使用方法が設定できるもののみを登録し、製造・販売・使用できる仕組みがとられている。

 農業生産に用いる農薬の安全を確保するには、農薬の安全性の評価が最新の科学的知見に基づくことが重要となる。このために設けられたのが、2018年の農薬取締法改正で導入した農薬の再評価だ。また、登録時に定められた使用方法や使用上の注意事項を守って農薬を使用することも重要である。さらに、十分に安全性を評価した上で登録するとはいえ、主に薬剤で病害虫を防除している中、薬剤抵抗性を獲得した病害虫が発生する事態も生じ、生産環境の改善に向けた環境負荷軽減が課題となっている。

国内使用量の多い順に再評価

 農薬の再評価は、同じ有効成分を含む農薬について一括で、国内使用量が多いものから優先して実施している。これまで、25年度分までを含む合計76成分を対象として告示し、うち23年1月末時点で24成分は再評価のために必要な試験成績や公表文献の調査結果などが提出され、14成分は農業資材審議会に諮問済みだ。今後、食品安全委員会、薬事・食品衛生審議会、中央環境審議会などでの審議も経て、再評価の審査が進められていくこととなる。その際、農薬使用者の健康やミツバチへの影響は、法改正と合わせて評価方法の充実化を図っており、農薬によっては、評価結果に応じて、被害防止方法が定められることとなる。

適正使用の推進

 農薬による事故・被害や残留基準値超過が続くことに加え、身の回りで予告なく農薬が使用されたことを不安・不快に感じた方からの相談などが寄せられる状況を踏まえ、22年の農薬危害防止運動も、「農薬は 周りに配慮し 正しく使用」をテーマとして実施した。特に、農薬ラベルによる使用基準の確認と使用履歴の記帳、土壌くん蒸剤を使用した後の適切な管理、住宅地などで農薬を使用する際の周辺への配慮及び飛散防止対策、誤飲を防ぐための鍵のかかる場所での農薬の保管管理などを重点的に指導している。

 土壌くん蒸剤のクロルピクリンは、眼に対する刺激性が強いため、施用後速やかに適切に被覆しないと、周辺の住民に思わぬ被害が出ることもある。現在、農林水産省にて被覆資材の種類による揮散防止効果などを確認中であり、成果がまとまり次第、現場に情報提供していく。

農薬危害防止運動ポスター

生物農薬の登録の促進に向けて

 農林水産省が21年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」では、環境負荷軽減の観点から、化学農薬の使用量(リスク換算)を50年までに50%低減を目指すこととしている。これをスマート農業技術の活用や栽培暦の見直しだけで達成するのは困難であり、生物農薬などの化学農薬に代わる資材の開発も期待されている。

 このため、22年6月に農業資材審議会農薬分科会に生物農薬評価部会を設置し、生物農薬の評価・登録を円滑に進めることとした。