水稲の病害防除

2023.02.20
農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域 病害虫防除支援技術グループ 主席研究員 芦澤武人

環境整え侵入防げ

 2022年は、6月下旬~7月上旬の記録的な暑さで、梅雨の期間が観測史上最短と見られていたが、その後梅雨の中休みとして訂正され、最終的に梅雨明けは例年より全国平均で5日程度遅くなった。その後西日本では、気温が高かったが、東日本では曇雨天の日が多かった。葉いもちは平年より発生が多く、穂いもち、紋枯病は平年並み、ごま葉枯病が多くなった。

穂いもち

いもち病

 本病の発生がある程度認められるが、その発生程度が低くなる抵抗性を圃場(ほじょう)抵抗性と呼ぶ。水稲では葉いもちに強い抵抗性遺伝子Pi34、Pi35、Pi39や穂いもちに強い抵抗性遺伝子Pb1と量的遺伝子座qPbm11が知られ、品種への導入・普及が進む。これら品種では、本田防除は基本的に不要となる。

微生物剤で効果高める

 種子消毒は温湯消毒が主流となるが、これだけでは防除効果が不十分なので、有機栽培でも利用できる微生物製剤などを消毒後冷却した種もみに処理して防除効果を上げる。本田では、ケイ酸質資材を多く施用することで、茎葉にケイ酸が蓄積し、物理的にいもち病菌を侵入しにくくする作用を利用する。

紋枯病

 伝染源は、土壌中の菌核と罹病(りびょう)残さである。近年の夏季の高温により、水稲病害の中で最も発生が多い。防除技術には、菌核をプラウ耕などで土中深くに埋没する方法や、窒素肥料を控えることで、分げつを抑制し、株間湿度を下げることなどで発生を抑制する耕種的方法がある。基本的に全ての水稲が感染するので抵抗性品種はない。

急な病勢進展に注意

 防除は、水面施用剤では出穂期10~30日前、茎葉散布剤では穂ばらみ期から出穂期に行うことが必要となる。近年は、育苗箱施用剤の効果が切れた後に急激に病勢進展して被害を及ぼすことがある。畦畔(けいはん)の短辺と長辺を歩いて株元を見ながら発病株を見つけ、発病株率が20%を超えたら防除を検討すると良い。

ごま葉枯病

 伝染源は、保菌種子や被害わらであり、除草剤を散布した畦畔上の雑草に腐生的に形成される胞子などもある。泥炭や砂質土壌など地力が弱い圃場では、微量要素成分が少ないことで水稲が健全に生育できず、稲体が弱ってごま葉枯病に罹病しやすくなる。

マンガン肥料の追加でミネラルバランス整う

 近年は高温により多発傾向が続く。マンガンを含む肥料の土壌混和が有効で、鉄、カルシウム、マンガンやケイ酸などをバランス良く含む鉄鋼スラグやそれらから調製した粒状肥料を土壌混和して利用するとよい。土壌中のミネラルバランスが整い、過度の減化学肥料とならないよう注意する技術が基本となる。