茶の害虫防除

2023.02.20
農研機構 植物防疫研究部門 果樹茶病害虫防除研究領域 果樹茶生物的防除グループ長 佐藤安志

発生パターンに変化

 近年、茶価の低迷に伴う防除経費の縮減や有機栽培茶園の拡大などにより主要害虫の多発化や潜在害虫の顕在化が問題となっている。さらに、栽培体系・防除体系の変化により各種害虫の発生パターンや発生状況が圃場(ほじょう)ごとに大きく異なる事例も増えてきた。このため、各害虫の発生状況を適宜把握した上で効率的で効果的な防除を心がけることがより重要となる。

カンザワハダニ

 幼~成虫が葉裏に寄生し吸汁加害する。春から初夏と秋に増加する二山型の発生パターンとなる地域が多いが、近年、浅刈り整枝後の夏季に多発する事例も増えている。防除適期は、越冬後の一番茶萌芽(ほうが)前、一番茶摘採後、秋芽生育期、越冬前など。冬季は茶園南面の据部の葉裏などをよく観察し、休眠から覚醒した暗赤色の雌が増え出したら、薬液が葉裏に充分に届くよう、10アール当たり400リットル相当量を丁寧に散布する。各種殺ダニ剤が有効であるが、抵抗性が発達しやすいため、同一系統の剤を連用しないことが重要である。ケナガカブリダニなどの天敵の発生状況も加味して防除の要否を判断する。

葉裏に寄生するカンザワハダニ

チャノホソガ

 年4~7回発生。老齢幼虫が新葉を三角に巻き、巻葉内にふんを堆積する。摘採葉に巻葉が混入すると製茶品質が著しく悪化する。卵は新芽にのみ産み付けられる。防除は新芽生育期などに行うが、幼虫の齢期により生息部位や加害様式が異なるため、対象となる発育ステージや農薬の特性・作用機作などを考慮して使用薬剤を選択する。新葉裏を観察し、水滴様の卵や潜葉痕がない場合は、薬剤防除を省くことができる。

チャノコカクモンハマキ チャハマキ

 幼虫が葉を綴って内側から食害する。年4、5回発生。誘蛾(ゆうが)灯やフェロモントラップで前世代成虫の発生消長を調査し、発蛾最盛日の7~10日後を防除適期と判断し薬剤を散布する。マクロライド系殺虫剤やジアミド系殺虫剤などが有効であるが、一部の薬剤について感受性が低下している地域も報告されているため、指導機関などの情報も参考に使用薬剤を選択する。BT剤や顆粒(かりゅう)病ウィルス製剤も効果がある。交信かく乱剤は、交尾を妨げ、次世代以後の発生を抑制する効果がある。

 

【キーワード】
▼マクロライド系殺虫剤
 放線菌から単離されたマクロライド骨格を有する殺虫剤。昆虫の神経伝達系に作用し、即効的に作用する。
▼ジアミド系殺虫剤
 昆虫の筋肉を収縮させ、様々な行動を阻害する。比較的即効性で作物への加害を抑制し、残効性もある。
▼BT剤
 バチルス・チューリンゲンシスという細菌が産出する結晶タンパク毒素が有効成分。チョウ目害虫の幼虫の腸内で可溶化し、殺虫活性を示す。比較的即効性を示すが、長期の残効性はない。
▼顆粒病ウイルス製剤
 種特異性が高い昆虫病原ウイルス包埋体を有効成分とする。感染虫は老齢期に発病、蛹化前に死亡するため、遅効的であるが、密度が高い場合は次世代への継代伝播効果も期待される。