野菜の病害防除

2023.02.20
農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域 生物的病害虫防除グループ長 窪田昌春

地域が北上 時期も拡大

 野菜栽培においても温暖化の影響により、微小害虫から媒介されるウイルス病や各種土壌病害の発生地域が北上し、発生時期も拡大している。土壌病害では、高温期に発生しやすい、野菜類全般の白絹病、ナス科作物の青枯病が問題となっている。地上部の糸状菌(かび)による病害では斑点病や褐斑病に注意する。

ピーマン青枯病

施設での対策

 野菜全般の地上部では、うどんこ病、べと病、灰色かび病、斑点病、褐斑病、トマトでは葉かび病などの糸状菌による病害が問題となる。病原菌は、病斑上に大量に胞子を形成して風媒伝染するため胞子が大量に形成される前の初発時期の防除が重要である。薬剤耐性に突然変異した菌株が発生しやすいため、使用する農薬は、多作用点阻害を基盤として、作用機作が異なるものをローテーション散布する必要がある。

トマトうどんこ病
キュウリべと病

資材消毒徹底しよう

 農薬の作用機作は、容器表面のラベルに数字やアルファベットのコード(RACコード)で記され、このコードが異なる農薬をできるだけ多くそろえる。いくつかの糸状菌による病害には、微生物農薬のバチルス剤が使用できる。微生物農薬は、薬剤耐性菌を発生させず、散布回数に制限がなく、有機栽培にも適用できる。病原菌の胞子は、施設内部のパイプや被覆フィルム、支柱などで生残し、次作でも感染するため、施設の蒸し込みや、塩素消毒剤などによる資材消毒など、圃場(ほじょう)衛生も重要である。施設栽培では、コナジラミ類やアザミウマ類の微小害虫によって媒介される、各種野菜の黄化葉巻病や黄化えそ病などのウイルス病も発生しやすく、微小害虫の防除を徹底して防ぎたい。

露地での対策

 野菜の糸状菌による病害では、べと病、疫病、炭疽(たんそ)病や黒斑病、さらに細菌による各作物の軟腐病、腐敗病、アブラナ科作物の黒斑細菌病、黒腐病などの被害が大きい。

キャベツ腐敗病

雨よけ設置で被害減

 これらの病原菌は、土壌中の植物残さなどから、降雨により水とともに跳ね上って感染するため、雨よけの設置によって被害が軽減される。土壌のマルチ被覆も有効である。いずれの病原菌も水とともに移動し、高湿度条件で感染するため、降雨後に農薬散布による防除を行うのが望ましい。

土壌病害対策

 土壌病害対策では、栽培終了後もマルチ被覆して土壌温度と水分を保つなど、土壌中の植物残さを十分に分解させる工夫が有効である。病原菌の多くは植物残さ上で生存するが、それらが完全に分解されると、土壌の微生物相の中では劣勢となる。前作で土壌病害が顕著に発生した圃場では、土壌消毒が望ましい。

深く消毒する資材も

 クロルピクリンなどの土壌消毒剤が有効であるが、住宅が近いなど、刺激臭があるくん蒸剤を使いにくい圃場では、土壌還元消毒が有用である。有機物と水を投入した圃場をマルチ被覆し、土壌温度をおよそ30度以上に1週間ほど保つことで土壌消毒できる。従来は、投入有機物としてもみ殻、米ぬかなどを用いたが、低濃度エタノール、糖含有珪藻土(けいそうど)や廃糖蜜など、有機物が土壌のより深い部分に達して消毒できる資材が開発されている。

 

【キーワード】
▼多作用点阻害(剤)
 病原菌の体組織の生合成は、呼吸系など複数の部分に対して作用する。保護殺菌剤といわれる。作用点が複数あるため抵抗性がつきにくい。
▼RACコード
 農薬は同じ系統のものを繰り返し使用すると、抵抗性が発達し効かなくなってしまう。そこで、異なる系統の農薬をローテーションすることが重要だが、系統と作用機構(効く仕組み)を調べる際に便利なのがRAC(Resistance Action Committee)コード。RACコードは農薬の作用機構分類を表し、国際団体(CLI)が取りまとめている。殺菌剤はFRACコード、殺虫剤はIRACコード、除草剤はHRACコードに分けられている。
▼土壌還元消毒
 土着の土壌微生物の力によって土壌を消毒する、化学合成農薬を使わない技術。土壌にフスマや米ぬかなどの有機物をすき込み、土壌温度を30度以上に一週間ほど保ちながら、大量の水を施用してビニール被覆すると土壌微生物が急激に増加する。このときの微生物の酸素消費で土壌が還元状態になる。