野菜の害虫防除

2023.02.20
農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域 生物的病害虫防除グループ長補佐 櫻井民人

気温が高く増えやすく

 寒い冬に始まった2022年は、春から秋にかけて平均気温は全国的に高くなった。ここ数年、気温の高い気象条件が続き、害虫が増えやすい状況だ。今後も強い警戒をもって的確な防除対策を講じることが肝要である。過去10年間に発表した病害虫発生予察情報の注意報を集計すると、チョウ目害虫が最多の113件、微小害虫のハダニ類72件、アザミウマ類36件、アブラムシ類7件、コナジラミ類7件、ハモグリバエ類5件となった。

チョウ目害虫

 ハスモンヨトウやシロイチモジヨトウ、オオタバコガは極めて広い食性を持ち、さまざまな野菜や花き類に被害を及ぼす。アブラナ科野菜全般を加害するコナガも警戒を要する重要害虫種である。注意報が多いハスモンヨトウは、高温かつ乾燥条件で多発するため、梅雨明け後に晴れの続く年は、特に注意する。

ハスモンヨトウ

薬剤は幼虫に散布

 薬剤防除は分散する前の比較的若齢の幼虫に実施するのが効果的だ。幼虫の齢が進むと殺虫剤の効きが悪くなるため、かすり状の葉を見つけたら直ちに防除する。施設栽培では、開口部に目合い4ミリ以下の防虫ネットを張って侵入を防ぐことや、黄色蛍光灯を夜間に点灯して活動を抑制することが有効である。薬剤防除には、害虫の薬剤抵抗性を発達させないようにIRACコードの異なる剤を複数選び、ローテーションを組んで適切に使用する。BT剤やIGR剤は遅効的ではあるが、若齢幼虫に対する防除効果が高い。21年10月に初確認されたトマトキバガは、植物防疫法第29条第1項の規定により使用が認められている農薬が、各県病害虫防除所のホームページなどに公開されている。

微小害虫

 微小害虫は、殺虫剤に対する感受性が低下する場合が多く、アザミウマやコナジラミなどウイルス病を媒介する種が多いため、生産現場では大きな問題となっている。

ネギアザミウマ
タバココナジラミ
カンザワハダニ

害虫を「入れない」「増やさない」「出さない」

 防除のポイントは、害虫を「入れない」「増やさない」「出さない」ことである。施設開口部への目合い0.4ミリ程度の防虫ネットの展張や、育苗施設における徹底防除は、害虫を「入れない」ために有効である。紫外線UVカットフィルムや光反射シートも侵入阻止に役立つ。施設内では、同一系統の農薬の連用を避けて使用し、害虫を「増やさない」ようにする。スワルスキーカブリダニやタバコカスミカメなどの天敵の利用も微小害虫の防除には有効である。害虫忌避剤として、アセチル化グリセリド(製品名「ベミデタッチ」石原バイオサイエンス)やプロヒドロジャスモン(同「ジャスモメート液剤」MMAG)がトマトで最近登録され、新規防除剤として期待されている。栽培終了後には蒸し込みを行い、施設内で発生した害虫類を外部へ「出さない」ことにより、その後の被害拡大を抑制する。

 

【キーワード】
▼IGR剤(昆虫成長制御剤)
 昆虫の成長や休眠、産卵等の昆虫特有の機能を阻害する。殺虫スペクトラムは狭い。主として食毒。浸透移行性はなく、遅効的だが残効は長い。