果樹の害虫防除

2023.02.20
農研機構 植物防疫研究部門 果樹茶病害虫防除研究領域 検疫対策技術グループ長 三代浩二

発生見極めて適期に

 2022年は春から夏にかけて全国的に気温が高く、10月以降は寒暖の差が大きく推移したが、果樹では害虫による全国的に大きな被害は発生しなかった。

カメムシ類

 果実を加害するチャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ、クサギカメムシは果樹カメムシ類と称される。22年は当年世代の発生が関東以西で多く、越冬世代対象を含め、延べ27都府県で注意報が発表された。大きな被害は発生しなかったが、秋の発生量が多かった地域では、越冬密度が高くなると予想される。来春以降の各地域の発生予察を参考に適切に防除してほしい。

ミカンを吸汁するチャバネアオカメムシ

早期に発見し防除

 防除の基本は、早期発見と早期防除である。園内を小まめに見回り、飛来初期から地域で一斉に防除する。発生量が多いときは、残効が長い合成ピレスロイド剤や吸汁阻害効果が持続するネオニコチノイド剤が有効であるが、合成ピレスロイド剤はハダニの天敵にも影響しハダニの多発を招くので注意する。

シンクイムシ類

 モモシンクイガとナシヒメシンクイは幼虫がリンゴ、梨、桃などの果実内を食害する。モモシンクイガは5~9月くらいまで長期間にわたり羽化し、果実に産卵する。ナシヒメシンクイは年4~6回発生し、近年は北東北のリンゴでも本種の9月以降の被害が発生している。22年は関東東海で発生が多かったが大きな被害はなかった。スモモやリンゴではスモモヒメシンクイの被害も増加している。

スモモヒメシンクイの被害

複合交信かく乱剤 広域に一斉施用

 シンクイムシ類は成虫が発生している期間は果実への産卵を防ぐため、定期的な防除が必要である。残効の長い合成ピレスロイド剤やネオニコチノイド剤、ジアミド剤を使用する。複合交信かく乱剤は広域で一斉に施用すると効果が高くなる。

ハダニ類

 果樹を加害する主なハダニ類として、ナミハダニ、ミカンハダニ、リンゴハダニ、カンザワハダニなどがあげられる。22年は全国的にハダニ類による大きな被害は見られなかった。

抵抗性が発達しやすい

 ハダニ類の防除は冬季のマシン油乳剤散布が春の初期密度低減に有効である。世代期間が短く、薬剤抵抗性を発達させやすいので、作用機作が同一の殺ダニ剤の連続使用を避け、抵抗性の発達を抑える。抵抗性発達の程度は地域ごとに異なるため、程度に応じた適切な薬剤を選択する。抵抗性の発達したハダニの対策として、土着の天敵カブリダニとパック式のカブリダニ製剤を組み合わせて利用する<w天>(だぶてん)防除体系の研究が進み、生産現場に導入が進められている。

国内で分布が拡大する害虫

 ビワを加害するビワキジラミが22年に京都府で新たに確認され、発生は8府県に拡大した。桃や梅などを加害するクビアカツヤカミキリは現在13都府県で発生が確認されている。これらの害虫は使用できる殺虫剤が増えており、効果的な防除体系の構築が可能になりつつある。

クビアカツヤカミキリ

モモヒメヨコバイ 22年に新たに3県で

 梅や桃を加害するモモヒメヨコバイは、22年に新たに3県で発生が確認された。本種はまだ使用できる殺虫剤が少なく、寄生葉の除去・埋設と合わせて対処しているが、順次増える見込みである。

モモヒメヨコバイ

 

【キーワード】
▼ネオニコチノイド剤
 神経系に作用し殺虫活性を示す剤。カメムシ類をはじめ広範囲な害虫に有効。浸透移行性を有し残効性は長い。
 ▼合成ピレスロイド剤
 防虫菊が有するピレトリンという蚊取り線香の有効成分を改善して開発。経皮、経口毒性で速効的、残効性も長い。有用昆虫にも影響がある場合がある。
 ▼<w天>防除体系
 天敵を主体とした新しい果樹ハダニ防除体系の概念。経済性に優れた「土着天敵の保全的利用」と、使い勝手が良い「天敵製剤の放飼増強」の2つを基幹とし、それぞれの長所を最大限に活かすことで、殺ダニ剤への依存を減らしたハダニ防除の実現を目指す。