温暖化による害虫生息域の拡大や外来害虫の侵入

2023.02.20
農林水産省 消費・安全局 植物防疫課

発生量増、被害が変化

早期の発見と防除が重要に

 温暖化などの気候変動を背景に、国内における病害虫の分布域・発生地域の拡大、発生量の増加、発生時期の早期化および終息時期の遅延などが報告されている。2020年に実施した都道府県病害虫防除所に対するアンケートにおいても、46都道府県から温暖化などの気候変動に伴い生産現場における病害虫の発生や被害などに変化が生じているとの回答があった。発生などに変化が見られた病害虫の例としては、クモヘリカメムシ、果樹カメムシ類、オオタバコガ、トビイロウンカ、スクミリンゴガイなどが挙げられている。

 環境省が20年12月に公表した気候変動影響評価報告書では、気候変動による農作物の生育、栽培適地の変化、病害虫・雑草の発生量や分布域の拡大などへの影響が認められており、防除対策の重要性などが示されている。

予防予察に重点 総合防除を推進

 わが国の食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるための新たな戦略として、21年5月に「みどりの食料システム戦略」が策定された。この中で、化学農薬の使用量(リスク換算)について、30年までに10%低減、50年までに50%低減するとの目標が設定された。こうした状況の変化や政策に対応するため、22年5月に植物防疫法を改正、農林水産大臣が基本的な指針(総合防除基本指針)を定め、都道府県知事が当該基本指針に則して、地域の実情に応じた総合防除の実施に関する計画(総合防除計画)を定めるなど総合防除を推進する仕組みを構築した。

 病害虫被害の軽減を図りつつ、持続的な生産を確保するためには、化学農薬だけに依存しない「予防」「予察」に重点を置いた総合防除の推進が必要であり、この中では①予防(病害虫が発生しにくい生産条件の整備)②判断(防除要否およびタイミングの判断)③防除(多様な防除方法を活用した防除)─に取り組むことが求められる=図1。地域の防除指導や産地実証などを活用して総合防除の実践に取り組んでいただきたい。

ミカンコミバエ九州本土へ飛来

 温暖化などにより、外来害虫の侵入も懸念されている。例えば、ミカンコミバエ種群は、主に中国・台湾・東南アジア・ハワイなどに分布する体長7㍉程度のハエであり、果実や果菜類に甚大な被害を与える害虫として知られている。わが国においては、1986年の沖縄県の八重山群島での根絶確認をもって、国内からの根絶を達成している。一方、根絶達成後においても南西諸島では、台湾・フィリピンなどの発生地域から風に乗って飛来したと考えられる成虫が確認され、20年度以降は、九州本土への飛来が確認されている=図2。

改正植物防疫法で報告する義務規定

 病害虫の侵入、まん延防止には、早期発見・早期防除が非常に重要であるため、改正植物防疫法では、病害虫が侵入した際の早期発見のための調査、迅速な防除を実施できるように措置された。農業者らが対象病害虫の国内への侵入などの恐れがあると認めた場合には、その旨を植物防疫所長または都道府県知事に通報する義務が規定された。病害虫の早期発見・早期防除のため、普段と異なる農作物被害がある場合には通報するなど、引き続き、皆さまのご協力をお願いしたい。