徳島から世界へ発信!!
有機JAS認証取得イチゴ

2024.07.11
徳島市の田渕善昭さん(56)

 イチゴの有機栽培は病害虫の多さや栽培事例の少なさから困難とされてきた。6年前に就農し、周りからは反対されていたイチゴの有機栽培を成功させた徳島県徳島市の田渕善昭さん(56)は、15aの連棟ハウスで「さちのか」を生産している。有機に取り組む思いや有機JAS認証を取得した経緯、病害虫対策、生産した有機イチゴを中東に輸出し高値で販売する取り組みを聞いた。

有機イチゴ栽培に取り組む田渕さん(徳島県徳島市で)

50歳で就農、有機の道へ

 50歳を機に農業の世界へと飛び込んだ田渕さんは、徳島市で一般的には無農薬では難しいとされるイチゴの有機栽培に取り組んでいる。農業を志すようになったのは、実家の中華料理店で働いていた40代の頃。料理人として健康にこだわったメニューを考える中で、次第に食材として扱う農作物に興味が湧き、自ら育てたいと思うようになったという。田渕さんは「起業して新しいことに挑戦するには年齢的に最後のチャンス。農業をやるならば最初からオーガニックを実践したいと考えていた」と話す。
 田渕さんは、出身地にある小松島市のNPO法人とくしま有機農業サポートセンターで有機農業の基本を半年間学んだ後、県内の農場で1年間研修。この研修期間中に10a当たり収量の高さが期待できるイチゴ農家になることを決断。母・和子さんの故郷である徳島市に15aの連棟ハウスを建て、2021年4月から家族経営で有機栽培のイチゴを育てている。
 農園名の「BUTTOBI BERRY ORGANIC(ブットビ・ベリー・オーガニック)」には、人とは違った面白さを探求し、困難すらも楽しみたいという田渕さんの思いが込められているが、就農直後はゼロからのスタートということもあって試行錯誤の連続だったという。地域のイチゴ農家に相談すると、誰もが「イチゴで有機栽培は無理」「やめておいたほうがいい」とアドバイスされた。それでも諦めない姿勢を見せたことで、多くが田渕さんの挑戦を親身になって支えてくれたという。「農法や方向性は違っても地域に溶け込むことを意識したおかげで、皆さんが仲間として迎え入れてくれた。このことがうれしく、とてもありがたかった」と、田渕さんは当時を振り返っている。 

 

ハウス内の生態系を保つ

 イチゴの有機栽培で課題になるのは病害虫の対策だ。同園ではハダニなどの病害虫に対しては天敵製剤「ミヤコカブリダニ剤」や防虫ネットを使用している。アブラムシ誘引作用のあるカラスノエンドウを圃場(ほじょう)脇に植え、他にフェロモントラップも設置している。田渕さんは「ハウス内も小さな生態系。調和が壊れるとどこかに影響が出てくる。土壌や作物が本来持つ力を発揮させ、病害虫がまん延する前に予防策を取ることが重要」だとし、ハウス内の環境バランスを崩さないことを心かけている。これらの努力が実り、オーガニック農作物として販売するために必要な有機JAS認証を開園翌年の1月に取得。イチゴ単品で有機JAS認証を取得した農園は全国的にも数件で、四国では初の取得だった。田渕さんは「認証はオーガニックを標記する必須条件のため、取得に向けた圃場の準備を研修に入る18年頃から進め、有機による土づくりや栽培に取り組んでいた。当初は取得まで5年、10年かかると思っていたが、できると思って取り組んだら、意外と簡単だった」と明かし、イチゴで有機は難しいという先入観がなかったのが良かったと話す。その上で「ただ、最初は教えてくれる人がいなかったので、暗中模索で決して楽ではなかった。挑戦を楽しめるかどうかが大切。試行錯誤を楽しいと思うことで、目の前の壁を乗り越えていった」という。

徳島で生産されたイチゴが世界へ(同)

 

有機JAS認証を取得したイチゴ(同)

 

中東へ輸出して高値販売

 同園で土耕栽培の品種は「さちのか」で、糖酸比が優れていることに加え、表皮がほどほどの硬さのために傷みにくい特徴がある。23年度は10a当たり4tのイチゴを収穫。同園では生産量の約6割がECサイトでの直接販売やふるさと納税の返礼品として出荷するため、収穫後の扱いやすさも大切な要素だという。有機JAS認証で同園のイチゴはすべてオーガニックと標記できるため、慣行栽培と比べると1kg当たりで約7倍の高値で販売される。アラブ首長国連邦のドバイに向けた輸出品はさらに高値の1kg当たり1万2000円から1万3000円程度で取引されている。ドバイへの輸出は商社を通じて今年から始まり、これまでに約150kgを出荷した。円安市場をプラスと捉え、オーガニック農作物のニーズが高い米国への輸出も視野に入れている。
 田渕さんは「持続可能な開発目標(SDGs)の考えが当たり前になるほど、環境へ負荷をかけずに育てた農産物の評価は高まり、高価格でも付加価値を認めて購入してくれる人が多くなっている。オーガニックは伸びしろがあり、夢が持てる」と話し、徳島から世界に向けてオーガニック・イチゴの魅力発信に力を入れ、仲間を増やして生産規模を拡大するのが目標だ。