近年、ネギ栽培で毎年のように病害虫に関する注意報、特殊報が発令されている。ここでは、発生エリアが拡大している従来とは別系統のネギハモグリバエと、一部薬剤への抵抗性発達が報告されるネギアザミウマの防除対策について、茨城県農業総合センターに解説してもらった。
ネギハモグリバエ
拡大する別系統の被害
ネギハモグリバエは日本各地に分布し、成虫はネギやタマネギ、ニラなどの葉の組織内に産卵し、幼虫は潜り込んで葉肉を食害しながら食害痕を形成し被害をもたらす。ここ数年、これまでの系統(以下、従来系統)とは異なる塩基配列を持つ系統(以下、別系統)が次々と確認され、2022年12月現在、36都府県から報告されている。茨城県の根深ネギ圃場(ほじょう)では、被害は3月末から発生し、8月中下旬から増え始め、9月中下旬にピークに達する。その後、10月から11月に被害は終息する。そのため、9、10月に収穫する夏秋取り作型や11月以降の秋冬取り作型では、被害の多発による品質の低下および収穫の遅延が問題となりやすい。
有効な薬剤と防除方法
これまでの調査から、チアメトキサム水溶剤(IRACコード:4A)やスピネトラム水和剤(同:5)、アバメクチン乳剤(同:6)、チオシクラム水和剤(同:14)、シアントラニリプロール水和剤(同:28)などがネギ葉内の幼虫に対し高い殺虫効果を持つことが明らかとなった。同様に、ジノテフラン粒剤(同:4A)やシアントラニリプロール・チアメトキサム粒剤(同:28、4A)の株元散布は被害の増加を抑えた。
発生・被害が増加する時期には、ネギ葉内の幼虫に対し殺虫効果の高い薬剤を1回散布しても、土中のさなぎに対して防除効果が期待できないため、効果的な薬剤を定期的に散布する。また、例年よりも発生量が多く被害の急増が予想される際には、事前に粒剤を処理し、被害の急増を抑制しつつ定期的な薬剤散布が必要となる。
留意点として、薬剤に対する抵抗性の発達を防ぐため、同系統の薬剤の連用を避ける。また、適切な防除のタイミングを把握するために、圃場での発生や薬剤使用後の防除効果についての定期的な確認が挙げられる。
茨城県農業総合センター 園芸研究所 病虫研究室 佐藤信輔 |
ネギアザミウマ
ギアザミウマの被害を軽減する防除体系
ネギアザミウマ=写真=はネギ栽培の重要害虫である。本種がネギの葉を加害することで、かすり状の白斑が生じ、商品価値の低下や生育遅延を引き起こす。近年、日本各地でピレスロイド系剤などに対して殺虫効果が認められない事例が数多く報告され、現場では対策に苦慮している。そこで、茨城県で実施した本種の防除対策について紹介する。
有効な薬剤の選抜
県内のネギ主要産地から本種を採取し、薬剤検定を実施した結果、供試した14薬剤のうち、殺虫効果が認められた5系統から7薬剤(ネオニコチノイド系:3剤、スピノシン系:1剤、マクロライド系:1剤、ネライストキシン系:1剤、ジアミド系:1剤)を選抜した。
防除体系の実証
選抜した薬剤のうち、5系統6薬剤を組み合わせた体系処理区とピレスロイド系剤を中心とした対照区を所内露地ネギ圃場に設置し=表、個体数および被害程度を調査した。その結果、対照区では7月中の薬剤散布で個体数が減少したが、8月中旬のピレスロイド系剤散布後に個体数が増加する傾向がみられ、食害程度も2・0~2・7と高く推移した=図参照。一方、体系処理区では薬剤散布後から個体数を低く抑えられ、食害程度も個体数に応じて減少し、9月上旬の収穫期には0・1と低く抑えることができた。
このように、本種防除には系統が異なる有効薬剤をローテーション散布することが効果的である。なお、各種薬剤の殺虫効果は各地域によって異なるため、散布後に圃場をよく観察し、薬剤の防除効果を確認願いたい。
左図は成幼虫数、右図は食害程度の調査を示す。矢印は薬剤散布日を示す。食害程度については株の中心3葉について以下の基準で評価し、平均値を算出した。
0:食害なし、1:面積の1~10%に食害、2:面積の11~20%に食害、3:面積の21~30%に食害、4:面積の31%以上に食害
茨城県農業総合センター 園芸研究所 病虫研究室 主任 窪田直也 |