ネギ病害虫防除のポイント

2024.07.01
圃場全体の土壌消毒と早期発見

 

 ネギ栽培では毎年のように病害虫に関する特殊報・注意報が発令されている。本特集では、埼玉県農業技術研究センターの宇賀博之氏に、多発すると深刻な被害となる黒腐菌核病と生育抑制を引き起こすネダニ類について防除のポイントを解説してもらった。

 ネギは作付けされる圃場(ほじょう)面積が広く、栽培期間も長く、生息する生き物が単一化されやすい(多様性が失われやすい)。また、古くから害虫忌避植物として知られている通り、天敵などが定着しにくい傾向にある。
 このような条件下では、さまざまな病害虫が発生する。地上部病害には黒斑病や葉枯病、べと病、さび病など、地下部病害には黒腐菌核病や白絹病、軟腐病、紅色根腐病などがある。
 地上部害虫はネギアザミウマ、ネギハモグリバエ、ヨトウムシ類、ネキリムシ類などが発生し、地下部害虫は、ネダニやネコブセンチュウに、発生地域が限られているネギネクロバネキノコバエによる被害も少なからず見られる。
 本特集では多発すると被害が大きい黒腐菌核病と、増殖率が高く苗の生育抑制を引き起こすネダニ類の特徴と防除対策を紹介する。

病害

黒腐菌核病の特徴

 

 本病は糸状菌(かび)による土壌病害である。ネギやタマネギ、ニラ、ニンニク、ラッキョウなどの野菜やユリなどの植物に感染する。厳寒期を除く低温時期に発病・まん延する。菌核の形態で越夏し(菌糸では越夏できない)、菌核は4年以上生存する。
 気温(地温)が20度を下回るころに土壌中に残存する菌核が発芽して主に根から感染する。感染初期は地上部に病徴(びょうちょう)は見られないが、茎盤(けいばん)部を切断すると、組織が崩壊しており、根からの感染がうかがえる=写真①。病徴が進むと外葉から黄化、地下部は根が脱落する=写真②。やがて葉鞘(ようしょう)部に菌糸がまん延して耐久性のある菌核が形成される=写真③。
 一般的に排水良好な砂質土壌や火山灰質軽埴土壌で多発するといわれている。一次感染は土壌中にある菌核が植物体と接触することで感染するため、感染株は少ない場合が多い。しかし、ネギは株を隣接して栽培することから、一次感染株から隣接株へと広がっていく二次感染(水平伝播)によりまん延し、低汚染圃場でも被害が大きくなりやすい。

【写真①】黒腐菌核病による茎盤部の病徴
【写真②】黒腐菌核病の発病程度別症状
左端:健全株 右ほど重症株
【写真③】葉鞘表面に形成された菌核

害虫

ネダニの特徴

 ネダニの研究や分類はあまり進んでいないが、数種がネギを加害することが確認されている。最も被害を及ぼすのがロビンネダニ=写真④=である。雌成虫の体長は約1mm、体は乳白色、えんじ色の足が特徴的である。生存に不適な環境条件になると飢餓や乾燥に強いヒポプスと呼ばれる齢期が出現するため、耕種的防除は難しい。気温10度程度以上で活動を行うため、土壌中で越冬した個体が春に定植したネギ幼苗を加害する。
 ネダニと表されるが根部ではなく茎盤部や地下部の葉鞘を加害し、根の伸長抑制や脱落が見られるため生育抑制が起こる。増殖率は高く、定植前の初期密度が高い場合は苗の生育が抑制される。また、夏季の極端に乾燥した圃場でも多発することがある=写真⑤=ため、注意が必要である。

【写真④】ロビンネダニ
【写真⑤】大量のロビンネダニに寄生され根がすべて脱落したネギ根部

共通の対策

 

 両病害虫とも土壌中に発生し、地上部に症状が現れるころには、被害がかなり進んでいる場合が多い。発生時期は異なるが、共通の対策技術も多い。
 いずれも発生圃場は根絶が難しいため、圃場全体の土壌消毒を行う。太陽熱消毒や還元土壌消毒、薬剤処理があるが、いずれも透明マルチなどによる全面被覆が必須である。
 作業には多大な労力を要するが、これを怠ると十分な効果が得られず、1、2年で元の被害に戻る危険性があるため、被覆処理は行っていただきたい。
 黒腐菌核病の高密度汚染圃場において、薬剤による土壌消毒を行った次作の病害の発生状況=写真⑥=を見ると被覆ありは発病株が見られないが、被覆なしは相応の効果が認められるものの発病、枯死株が見られる。

個別の防除

 

 黒腐菌核病の感染株に対する薬剤の治療効果はあまり期待できないため、感染させないことが重要である。具体的には、感染の好適時期と重なる比較的冷涼な春季に定植する場合、定植後の粒剤処理を行いたい。秋冬ネギでは気温が低下する9~11月の土寄せ前の散布剤やかん注剤の処理が有効である。
 近年では定植前の苗箱処理により、年内の収穫まで防除効果が得られる残効の長い薬剤もあるため、積極的に利用したい。圃場で発生が見られた場合、発病株は収穫しないことも多いが、放置すると次年度の発生源となる菌核を大量増殖させてしまう。可能な限り菌核が形成される前に抜き取り、適正に処分することが得策である。
 ネダニによる被害が大きいのは幼苗期であることが多い。前作で被害が確認された圃場では定植時の粒剤処理を行う。植えつけた後に坪枯れ状に被害が確認された場合は、発生した場所を中心に薬剤処理を行うことが賢明である。
 両病害虫は地下部で発生するため、収穫時まで認識されない場合もあり、防除が手遅れになることもある。早期発見には定期的な圃場の観察と、地上部に異変を感じた時には数株でもよいので株を抜き取り、地下部にも目を向けていただきたい。

【写真⑥】薬剤による土壌消毒時の被覆の有無とその効果(上:被覆あり 中:被覆なし 下:無処理)
埼玉県農業技術研究センター
病害虫研究担当
宇賀博之