栃木県・JAはが野いちご部会
イチゴ主産県・栃木県のトップ産地JAはが野いちご部会は、20年前から、総合防除(IPM)に取り組む、天敵利用のリード産地だ。158.5haと栽培面積が広いからこそ害虫の薬剤抵抗性を警戒し、天敵と化学合成農薬を組み合わせて防除。メーカーと連携し、即効性がある天敵農薬、持続性がある天敵農薬など特性に応じた巧みな使い分けも体系化した。効果的で省力な生産技術を生かし、新たなブランド「とちあいか」の生産・販売にも弾みをつける考えだ。

ハダニの蔓延きっかけ
試験重ね天敵利用確立
JAはが野いちご部会部会長の小林聡さん(60)は、2011年に親元就農しイチゴ栽培を始めた。「その頃、ちょうど天敵防除が広まり始めた。春先の薬剤散布の回数が増え、使える剤が少ないため、その補完として天敵を使おうとなった」と小林聡さんは振り返る。

特に薬剤抵抗性を持つハダニの蔓延(まんえん)は深刻な課題だ。イチゴの生産面積や農家戸数が多い栃木県では、同じ農薬を一斉に使用することで、薬剤に強いハダニが生き残りやすくなり、薬剤抵抗性が早期に出現してしまう。そのため新しい農薬の開発が求められるが、メーカー側も投資回収が難しい段階では新薬の投入に慎重にならざるを得ない。
こうした背景から同県では、約20年前から「天敵IPM」の導入が試験的に始まった。
同部会は県やメーカーと連携し、現地試験を重ねながら、ハダニの天敵利用法の確立に取り組んできた。データの蓄積とともに、より効果的な運用方法を確立していった。
天敵5種類使い分け
品質向上に生産者が注目
農薬の散布回数削減、コスト低減にも
栃木県JAはが野いちご部会では、イチゴの害虫防除に主に5種類の天敵を使い分ける。即効性の有無、価格の高低なども踏まえ、その時点で効果的な天敵農薬を選定する体系を築く。天敵活用は果実の傷み軽減につながるとみて、積極的に使う生産者が増えている。
部会員の7割導入 害虫の増殖防止へ
イチゴ栽培の害虫対策として、小林部会長が導入している天敵製剤は、ハダニ対策には「スパイカルEX」と「スパイデックスバイタル」の2種類を使用。スパイカルEX(ミヤコカブリダニ)は動きが遅いが、花粉も食べてじわじわと繁殖し、長期的な抑制に効果を発揮する。一方、スパイデックスバイタル(チリカブリダニ)はハダニを主食とし、即効性が高いため、現存するハダニの駆除に適している。両者を年内に同時放飼し、ハダニの発生状況に応じて追加投入することで、シーズンを通じて安定した防除が可能となる。
アザミウマ対策には「リモニカ」と「ククメリス」を併用。リモニカは低温下でも活動でき、厳寒期を越冬するイチゴ栽培に適している。さらに、リモニカは1齢・2齢幼虫まで捕食できるため、幅広い対応力を持つ。ただし、コストはククメリスの5~6倍と高価なため、秋口はククメリス、厳寒期はリモニカと使い分けることで経費を抑えつつ効果的な防除を実現している。
アブラムシ対策には「アフィパール」を導入。これはコレマンアブラバチのさなぎをハウスに放ち、孵化した成虫がアブラムシに寄生する仕組み。アブラムシの発生を確認次第、速やかに導入することで被害を最小限に抑えている。

これら5種類の天敵製剤は同時並行で使用しても問題ない。ハウス内で害虫ゼロの環境を作るのは難しいが、天敵を事前に導入しておくことで、害虫の急激な増殖を防ぎ、発見時にも迅速な対処が可能となる。これは保険的な役割も果たし、化学農薬の散布回数削減やコスト低減にもつながる。特にイチゴは水濡れが果形に悪影響を及ぼすため、薬剤散布の頻度を減らせるメリットは大きい。


アザミウマ対策として天敵「ククメリス」や「リモニカ」の活用が定着してきたのは、ここ1、2年だ。酷暑によるアザミウマ被害の増加とともに、果実への傷みが懸念される薬剤の使用を極力控えたいという生産者の思いが、天敵利用の拡大を後押ししている。
現在、JA管内では6~7割の生産者が何らかの天敵を利用しており、ハダニの被害も減少傾向にある。今後も天敵利用の重要性は増すと見込んでいる。
20年ぶり進む品種転換 「とちあいか」を主力品種
栃木県は全国的にも有名な「とちおとめ」ブランドのイチゴ産地として知られてきた。そうした中、優良な特性を持つ新しい品種「とちあいか」が登場。「とちおとめ」より病気への耐性が優れるなどの特徴があり、県全体で大規模な品種転換が進む。「女峰」から「とちおとめ」への切り替え以来の20年以上ぶりの大変化だ。

「とちあいか」は萎黄病や炭疽(たんそ)病に強く、病気の発生が比較的少ないため、栽培のしやすさが大きな魅力だ。また果形が良く、サイズも大きいため、パックに詰める個数が少なくて済み、手間が大幅に削減できる。さらに、果形のばらつきが少ないため、等階級選別の判断の手間も減り、パート従業員からも「とちおとめ」より作業がしやすいと好評だ。
現在、管内生産者の約95%が「とちあいか」へ品種転換を完了している。省力化と効率化を実現した「とちあいか」は、今後も栃木県のイチゴ産業を支える主力品種として期待が高まっている。
JAはが野いちご部会
部会員戸数は500戸、栽培面積は158.5ha。2025年産(24年10月~25年6月)のイチゴの販売額は部会目標の115億円を超え、118億円に到達。26年産では130億円も視野に入る。
